まだ、だめ



 生殖本能というものがある。
 それは俗に、命の応酬……生命の危機に高まると言われており、それは、どうやら生殖自体を必要としないエーテル体サーヴァントの彼も同じようであった。

「……っ、マスター……」

 激しい戦闘から帰ったばかりの彼は、荒れる呼吸と寄せられた眉、余裕なんて一切感じられない様子で私の腕をシーツに縫い止める。そうして首元に顔を寄せるもそれ以上は特に何をするでもなく困惑するような怒りを感じるような表情で「いいだろ」と掠れた声を漏らしていた。

「なにが?」
「わかってるだろうが」
「ふふ、なぁに? わかんないや……」

 わからないわけはない、彼の様子に、押し当てられるその熱に私が気づかないわけもない。気づけないわけがないのだ。
 ——そして、私が、同じような熱を持て余していないわけが、ないのだ。

「マスター……」

 彼の手が私の服の下へ忍び込み肌に触れようとしているのを静止する。だめ、と告げれば彼は大人しく侵攻を諦め、囁くように「なんで」と吐息を漏らした。

「だめだよ、嫌、触ったらやだ」
「お前、さっきから、そればっかり……」
「やだ」

 嫌なんて嘘。彼だってそれをわかっているのに許可が出ない限り続きをするつもりはないらしい。その忠犬具合が不思議と愉快で、私は頬を緩ませながら「いや」を繰り返した。

「いい加減、良いだろ……良いと言ってくれ」
「——いやだよ」

 懇願されたって、私が天邪鬼だと知っているくせに。良いなんて——すぐに言うつもりがないってわかっているくせに。

 もう少し。
 もっと。
 あぁ、いや、もう一度——。

 私のことを求めてくれ、愛しいランサー。そうしたら次は、次こそは、うんと頷いてみせるから。
 
 ——ううん、やっぱり、あと一度だけ、私が欲しいと言ってみて?
 




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