見えぬ星に、手を伸ばす* 私の頭上に、焦がれていた男の顔があった。
永遠のはずの離別ののち、共に過ごしてきた時間と同じだけの年月が経ってなお忘れることのできなかったその男が、義務と思慕の間で揺れるような声色で、私の名前を呼んでいる。
私の肌に触れている。
「き、れい」
「なにかな、——」
彼が呼んだのは正しく私の名前だ。しかし私が呼んでいるのは、正しく彼の名前だろうか。彼と同じ顔、彼と同じ身体、彼と同じ声で、彼とは全く違う行動に出るこの存在を、私はなんと呼ぶべきだったのだろうか。その答えは、未だわからないまま。
——嗚呼、それでも、これは間違いなく正しい選択ではなかった。
彼が「どんな望みでも」と甘言を口にしたとて、私はその誘いに乗るべきではなかった。秘め続け、諦め続けていた願いを望むべきではなかったのだ。
(これは彼では無いと知っていたのに)
例え、
バゼットが、カレンが、彼を言峰綺礼≠ニ認識していたとしても。——私を覚えていない言峰綺礼を、私は言峰綺礼として認識することはできない。彼と同じ顔をしたあの男を、私は彼だと思わない。
だってもし本当に彼なら、私のこと覚えているはずだもの。
「君」
なんて呼び方するはずないし。
「どうしました?」
なんて、かしこまったこというはずない。
……私のことを、
「マスター」
なんて……呼ぶはず、ないのに。
「——、」
好きな男と、同じ、声で、名前を呼ぶ、それを、その手を。私は振り払うことができなかった。
頬を伝う涙は悔しさと苛立ちと、ほんの少しの望郷のためか。——それがどこまでも情けなくて、耐え難いほどに自分を惨めにさせた。
それでも、嗚呼、やはり、悲しいことに——私はそれに手を伸ばさずにはいられないのだ。
それがどんなに、愚かなことか知っていても。
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