序章 某日プロジェクタールーム。
眼前に広がる大きなモニター、映し出されているのは現代のとある婚姻の儀の風景で。
「うわぁ〜……! 綺麗〜!!」
私の隣では、立香ちゃんとマシュが、二人並んで目をキラキラさせながらその映像を眺めていた。
「お望みなら日本以外の結婚式のデータもあるよ?」
「え! 見たい見たい! ね、マシュ」
「はい先輩! ぜひ……!」
「オッケー、じゃあ次はインドの式なんてどうかな」
得意げな様子のダ・ヴィンチ女史が、そう言って次の映像を再生し始める。——なんて微笑ましい。また画面に釘付けになる少女たちを横目に、私は思わず笑みが溢れた。
——人理修復から数ヶ月、亜種特異点の出現はあったものの、現在のカルデアには以前では考えられないほど穏やかな時間が流れていた。
「……いいなぁ、私もいつか、なんて……」
「!! せ……先輩のウェディングドレス、ですか……!」
「うん、でも、似合わないかなぁ〜」
「いいえ! そんな……絶対素敵です!」
「そ、そうかな……えへへ」
ふわふわしたなんとも可愛らしい会話だ。そんな初々しさなどとうの昔に失くしてしまった身としては、眩しいことこの上ない。
感じ入るようにうんうんと頷いていると、何か勘違いしたのかダ・ヴィンチ女史が「君もそう思うかい?」と私へ問いを投げかけてくる。立香ちゃんのドレスの話と判断した私が「はい、思いますね」と返事をすると、なにやら楽しげな顔で彼女……いや、彼もまた頷いた。
「よし——じゃあ、挙げちゃおうか! 結婚式!」
「——は」
なにを——突然——? 何処で……此処で!? だ……誰と誰の!? 混乱する私を他所に、彼は何故か私の肩をぽんと叩く。
「では——花婿はランサークラスのクー・フーリンくんでいいかな?」
「なん……! え!?」
「だって……君も、結婚式を挙げてみたい、と思うんだろ?」
「!?」
そんな事一言も……! と言いかけて、先程の彼の問いかけを思い出す。まさかあれはそれを聞いていたのだろうか。
「あ、いや、あれはそうじゃなくって……!」
「それいいね!」
「はい、素敵です!」
「いや、だから」
「よーしそれじゃあ早速準備に取り掛かろうか!」
「「おー!」」
私の否定の言葉は残念ながら三人の耳には届かず——そんなこんなで、何故か私はここで結婚式とやらを挙げることになってしまった、らしい。
「んで、断らなかったのか」
「……一応、勘違いだって言ってみたけど」
「けど断れなかったんだろ」
「う……うん……」
だってあんな期待を込めた目で見られたら……ねぇ……?
マイルームでランサーと二人、私はベッドの上で大の字に転がりながらため息を吐いた。彼はそんな私を見下ろしながら、やれやれと言った顔で同じように息を吐く。
「相変わらず押しに弱いっつーかなんつーか」
「うう」
「……で、自分で準備の手伝いもすることになったって?」
「ううう……」
『最低限必要なのは……ドレス、ケーキ、それから指輪、かな? ——うん、どうせなら、納得のいくものを自分で用意するといい!』
……ダ・ヴィンチ女史が笑顔でそう言い切ったのを、私は拒否することができなかった。
確かに、誰かに全て用意してもらっても、なぁ——と、自分でも感じてしまったが最後、「いや、そもそも」と声を上げる前に、彼等は各々の準備があると言って解散してしまったのだ。
「なら放っておけばなかったことになるんじゃねぇか」
「うう、ううう、でも、立香ちゃんもマシュもすごく楽しみにしてるみたいな顔してたし……! なかったことにするわけには……!」
「難儀な奴だな〜……」
いまいち乗り気ではないランサーの声に、私は少しだけ胸がちくりと痛む。
——期待には応えたい、だから私はこの式を成功させるために、多少の恥じらいは胸の奥にでも仕舞い込んで準備に取り掛かるつもりだ。
だけど、結婚というのは、相手がいるから成り立つものであって——
(……ランサーは、嫌? 仮だとしても、私と結婚、なんて)
嫌だから、そんなに眉間にシワを寄せてるの?
そうだ、と答えられるのが怖くて、私はそれを聞けないまま彼から目を逸らす。
「……さーて、面倒ではあるけど、やるからには満足のいくものにしなくちゃ……ランサー、行こう」
「はいはい」
から元気を悟られないよう、出来るだけ目は合わせずに私は部屋を出た。……息を吐いて後ろをついてくるランサーの表情を、確認するのも怖かった。
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