1章 ドレス まずはドレスの用意をするべく、私はある人の元へ向かった。
「……ってわけで、お願いします! メディアさん!」
「はぁ……?」
ひく、と彼女の眉が動く。まぁ、突然「私用のウェディングドレスを仕立ててほしい」なんて言われても困るのは当然だ、私だとしても困惑する。
しかし私が知る中で、このカルデア内で一番そういうのが得意そうな(かつ頼みやすい)のはこの、メディアをおいて他にはいない訳で。
「もう誰にも頼れなくて……!」
「どうして私がそんな面倒なことを……」
「立香ちゃんも楽しみにしててぇ」
「……はぁ」
彼女達のマスターである立香ちゃんの名前を出すと、彼女は軽めのため息を一つこぼした。そしてしばしの沈黙の後に、眉間にシワは寄せたままで「仕方ないわね」と彼女は肩をすくめる。
「本当!? ありがとう……!」
「言っておくけど、ドレスだけよ。……そこの男の衣装は作りませんからね」
「う、うぇ……、いや、うん、ドレスだけでも手を貸してくれると、すごく助かりマス」
正直、彼のタキシードは別で用意しなければならないのは面倒だが、わがままも言ってられまい。私がそう言って彼女の手を取ると、彼女はようやく少しだけ笑みをこぼしてくれた。
「それで、どんなドレスが御所望なのかしら」
「えーと、そうだな……」
先ほどプロジェクタールームで見た映像を思い出しながら、メディアに大まかな希望を伝える。もちろん、高望みはしない、なんならドレスの形をしていればなんだっていいが——でも、できるなら、もし望んでもいいなら、こんなのがいいな……というような希望も含め。
「……そんな感じがいいな。あ、あと、できれば肩はあんまり出ない方が」
「へぇ……あなた、思ったより派手なのが好きなのね」
「え」
そうだろうか、自分としては、できる限り装飾が少ない、縫製の楽そうなものを……と思っての希望だったのだが。
「む、難しそうなら、もっと簡単なのでも」
「いいえ、一度作ると言ったのだから、完成させるわ」
頼もしい一言と共に彼女は微笑む。ありがたい、本当にありがたい、これが終わったらダ・ヴィンチ女史にでも頼んで彼女の望むものの一つや二つ用意して——
「……もっとシンプルな方が良いんじゃねぇか」
先ほどまでいっさい口を開かなかったランサーが、ここに来て何故かそんなことを口にする。
「……なんで」
「別に、んな豪勢に着飾ることもねぇだろ、お前」
——それは、綺麗なドレスなんて、私には似合わないから必要ないだろってこと?
むっとした私に、彼は「なんだよ」と心底不思議そうな様子で眉を顰める。
「…………別に、私が着るんだから、ランサーは関係ないじゃん」
「関係なくはないだろ」
彼のいう通り、関係なくはない。これは私と彼の二人の結婚式なのだから。
だけどなんだかむしゃくしゃした気持ちを隠すこともできずそっぽを向いたままの私に、メディアは呆れながら言葉をかけた。
「同情するわね、そんなデリカシーのない男と結ばれるなんて」
「あ?」
「おまけに野蛮……考え直した方が良いんじゃないかしら」
「いいの……別に、それよりランサーのタキシードをどうするか考えなきゃ」
「——ならば、余も手を貸そう」
「え……、わ、っ」
突然の声に顔をあげると、そこにはバーサーカー・ヴラド三世がそこに立っていた。いったい何時からそこにいたのか……驚いてバランスを崩した私の背を、ランサーがそっと支えてくれる。
「っと……危ねぇぞ」
「あ、ありがと……」
「ん」
少しだけ気まずさを感じながらもお礼はきっちり口にして、ヴラド三世へ改めて向き直った。手を貸す、とは? と首を傾げていると、彼はランサーよりさらに頭上から「力を貸してやっても良い」と繰り返した。……そういえば、彼もよくぬいぐるみとかを作っていたっけ。
「えぇと……じゃあ、お願いしても、いい……ですか?」
「よかろう——余のマスターも、それを望んでいるようだしな」
そう言って、どんなものがいいかと二、三言葉を交わしてから、メディアとヴラド三世はそれぞれ廊下の向こうへと歩いて行った。
(そうだよね、
立香ちゃんが楽しみにしてるんだもん、そりゃあ、手も貸してくれるよ)
相変わらず、善にも悪にも好かれる不思議な子だ。そういう私だって、最後のマスター云々を抜きにしても彼女のことは大切に思っている一人だし。
(……いいなぁ、彼女はサーヴァントに慕われていて)
私とは大違いだ、と、傍に立つランサーを見上げながら、私は静かに息を吐いた。
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