2章 ケーキ



 私は人理修復機関カルデアの技術部の職員であり、レオナルド・ダ・ヴィンチ女史の部下。それ以上でもそれ以下でもなく——マスターなどでは、断じてない。
 ……はずだった。そのはずなのに、何故か私には、多少のマスター適性があったようで。

「おい、考え事しながら歩くと危ねぇぞ」
「……うん」

 そうして、なんだかんだあった末、この男、ランサークラスのクーフーリンと契約を結ぶに至ったのである。

(だから、彼は他のサーヴァントとはちょっと違う、彼だけは、立香ちゃんじゃなく私のことをマスターって呼んでる)

 そして、彼は私の……その……いわゆる、恋人、というやつでもある。はずだ。

 私は彼に好意を伝えたし、彼もそれを返してくれた。する事もまぁ、しているし、恋人、と呼んでもおかしくないはずだ。……つい先ほどまでは、そう考えていた。
 けれど——

「…………どうかしたのか」

 いつもより、心なしかつまらなさそうな表情。少し重い足取り。彼の様子から、彼がこの結婚式というイベントに後ろ向きなのは明白で。
 なら、もしかして、恋人だと思っていたのは私だけなのではないか、などと——不安にもなってきたわけで。

(ありえる、よね……ランサーは多分、いいなと思った相手なら付き合ってるとか云々は関係なしに抱いたりしそうだし)

 これが俗に言う「一回抱いただけで彼女ヅラしやがって……」というやつなのだろうか、そう考えると、自然と私の足取りまで重くなっていく。
 ……まぁ、一回ではないんだけど。
 吐きそうになった何度目かのため息を飲み込んだところで、私たちは目的地であった食堂へとたどり着いた。
 
 
 
「良いだろう、任せておきたまえ」
「やったぁ!」

 事情をかいつまんで説明した直後の、快諾。ありがたいことに、ケーキはアーチャー・エミヤをはじめとしたキッチン担当のみんなにお願いできるらしい。

「いいね、じゃあケーキだけじゃなくて料理にも力を入れなきゃだ」

 ブーディカが柔らかな笑顔でそう言って、エミヤもそうだな、と頷いている。これはどうやら、ケーキだけではなく食事の方も大分期待ができそうだ。

「もちろんキャットも手伝うゾ!」

 キッチンの奥からキャットが顔を出す。「ありがとう」と声をかけると、耳をピクピクと震わせてから、満面の笑顔でまた奥へ引っ込んでいってしまった。……今日の夜ご飯は彼女が担当なのだろうか? 彼女の料理はなんだか久しぶりなので楽しみだ。

「ふむ……ウェディングケーキか——もちろん、豪勢にしてしまっても構わんのだろう?」

 片目を瞑り、(何故か)誇らしげな顔でエミヤは胸を張る。もちろん……と答えたいところだが、彼に「豪勢に」と言われると、どれだけ豪勢なものが出てくるのかと心配になる。あまり大きくてもちょっと困るぞ。

「ま、まぁ、ほどほどで……」
「そうか、了解した」

 大きさや量がどうなるかはわからないが、これで美味しい料理は確約された。私は式の成功うんぬんよりも、エミヤ達が腕によりをかけて作ってくれるというケーキが楽しみで、こっそりガッツポーズをする。
 それに、美味しいご飯が出るというなら流石のランサーだって、少しは嬉しいはず——

「……話が終わったんなら戻るぞ、まだ用意するもんが沢山あんだろ」

 ——はず、だと思ったのに。
 何故か一層ムッとした表情で、エミヤと私の間に入り、私の腕を引いて歩き出した。

「あ、うん……ご、ごめん二人とも、よろしくね……!」

 私が彼に引かれながらそう伝えると、ブーディカもエミヤも少し驚いたような顔をした後——何故か、やれやれという顔で微笑んだ。




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