3章 式場 その後も、私達は各所を各人を訪ねて歩いた。
まずは神父役を、天草四郎に頼みに。
「ええ、いいですよ」
彼に頼みに行ったのはなんとなく……本当になんとなく、似合いそうだなーと思ったからだ。神父服も似合っているし。特に理由を聞かれもしなかったので、彼も自分が頼まれることに違和感は特にないのだろう。
……問題のランサーは神父という単語に少しばかり顔をしかめていた。
次に、式場の飾り付けや用意はダ・ヴィンチ女史と立香ちゃん、マシュに。
「任せて!」
「はい、頑張ります!」
私は正直シュミレーションルームでバーチャルリアリティーによる結婚式で良いと思ったのだが……それじゃあつまらない、と言い出したのは彼等だった。
言い出しっぺなんだから、セッティングはお任せしたい、と伝えたところ、立香ちゃんとマシュは何やら張り切っていた。どうやらティールームとして使っている空間で行うらしい。
…………ランサーは、あんまり興味がなさそうだった。
それから、メイクはパールヴァティーにお願いした。
メイヴちゃんに頼むというのも考えたが……クーフーリンとの婚姻ということを考えると、後がちょっと怖かった。
「私で良いんですか? ……はい、精一杯がんばりますね」
照れたようにはにかむ彼女に、感謝の言葉を伝えて立ち去る。後はなんの準備が必要だったっけ——。
………………ランサー、は、退屈そうに欠伸をしていた。
「……ランサーはどれが良いと思う?」
式で流す音楽を決めようと、私たちはカルデアのデータベースを閲覧することにした。ここまでは、私の生まれ故郷である日本の結婚式を元に準備を進めてきてしまったが、もう少し彼の文化にも寄せるべきかと思い、私はいくつかのケルト民謡を聴き比べている。
アイリッシュ音楽……ともいうのか、あまり詳しくはないが、彼の生まれた国で伝わっていた音楽だというのなら、完全に同じでなくても彼の好きな唄と似たようなものも見つかるかもしれないから。
……そうしたら、もう少しくらい、彼もこの茶番に前向きに取り組んでくれるかもしれないから。
「ん……こいつは」
とある曲を再生していた時、生返事ばかりだった彼がようやく反応らしい反応を見せる。私はそれだけでも嬉しくて、曲のタイトルを確認しながら彼に話しかける。
「あ……この曲、ランサーの伝承を元に作られたんだって!」
「ほう、なるほどな、いいセンスじゃねぇか」
私が見ていたモニタを一緒に覗き込むように、彼が私の隣に顔を寄せる。いつも通り、見ている側さえ元気にしてしまうような満面の笑顔で。
「じゃあ、これにしよう! ……ちょうど、クーフーリンの婚姻をモチーフにした曲みたいだし」
彼との距離が近くて、いつもより早くなった心臓の音が聞こえてしまいそうで、それを誤魔化すように私は少し早口でそう言った。
ああ、よかった、彼も気に入ってくれたようで。それに内容としても申し分ない。
——そう、ほっと胸を撫で下ろしたところで、彼の表情が変わった。
「いや——やっぱ別の曲にしようぜ」
そんなことを言って、また、眉間にシワを寄せて彼が目を伏せる。
「……なんで」
なんでそんな顔、するんだ。
やっぱり嫌なのかな、面倒なだけなのかな、
——ちょっとだけ楽しみなのは、私だけだったのかな。
私は、ただ、ただ——そんな思い出だけでも欲しいと思ってるだけなのに、な。
「なんでって……——っ、? は!? なんっ、なんで泣いてんだお前」
「なっ……泣いて、ない……!」
ぎょっとして目を見開くランサーにそう言われて、自分の瞳に涙が溜まっていることを自覚した。泣いてない、まだ泣いてない、だけど、もう、泣きそうなのは確かだった。
「……っ、なんでさっきから、文句ばっかり言うのさぁ……わた、私だって、ちゃんとランサーも喜んでくれるようにしたいのにさぁ……!」
「文句なんざ言ってねぇだろ」
「言ってるもん! ……仮でも私と結婚するのが嫌なんだろうけど——」
「——待て、いつ俺が嫌だなんて言った?」
「え?」
彼の少し焦ったような声に顔を上げる。目の前には、私と同じように「わけがわからない」という顔で瞬きをする彼の顔があった。
「だ、だって、ランサー、ずっと乗り気じゃなかったじゃん、難しい表情ばっかして……」
「乗り気じゃないのはお前の方だろ、下向いてとぼとぼ歩きやがって」
「それは……! ランサーが……嫌なのかと思って……」
「だからそんなこと言ってねぇだろうが」
「でも! でも! さっきから全部あれはダメこれはダメって……!」
「俺の希望を伝えただけだろ、別に否定してるわけじゃねぇ」
「き、きぼう……?」
頭の上にクエスチョンマークを浮かべながら、私たちは互いに声を張り上げる。側から見ればただの口喧嘩だ……いや、当人たちにとってもそんなところだが。
「ドレスのデザインがシンプルな方が良いって言ったのは……」
「俺がシンプルな方が好きだってだけだ、お前が派手なのが良いってんならそれでいい」
「き、キッチンですっごい嫌ーな顔してたのは」
「……てめぇが、やけに嬉しそうにアーチャーに寄ってくのが気に入らなくてよ」
「じゃあ、さっきの曲、やっぱり違うのにするって言い出したのは……」
「それはお前……仮にも永遠を誓うって時に、他の女との婚姻を題材にしたもんかけるのは——お前、嫌だろ」
「……!」
なら、なら今までのは全部——
「——かんちがい……?」
なんてことだ、彼は本当に、嫌がってなんていなかったというのか。むしろ——
「……〜〜〜っ」
私は両手で顔を覆い隠し、その場にしゃがみ込む。あぁ——やってしまった、やってしまった、やってしまった——これは、とんでもなく、恥ずかしい、ぞ……!
「ら、らんさー……」
「おう」
「…………ご、ごめん……………………っ」
「……おう」
うずくまったまま呻く私の頭を、彼の手が撫でた。優しさがやけに沁みる。うう、マリッジブルーということでどうかなかったことにしていただきたい。
「まぁ、俺もお前が嫌がってんだろうなと勘違いしてたからな、おあいこだ」
「……ありがと」
ようやく顔を上げた私に彼が手を差し伸べる。それを取って立ち上がり、二人で目を見合わせて「……なにやってるんだろうね」と微笑みあった。
「……さて、あとは何を決めなきゃいけねぇんだったか」
「あ、えぇと、あとは……指輪と、当日の流れと……かな」
「そうか——なら、俺に提案があるんだが、いいか?」
——そうして、その一週間後。
私達の「結婚式」がカルデアで行われることになったのだった。
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