お暇を頂戴いたします



 ——無気力。
 実際問題、仕方ないことだと思うのだけど。

「まぁた寝てんのか」

 ノックもなく開かれた扉に憤ることもなく、振り返る力もなく言葉にもならない曖昧な声で応える。そのサーヴァントは呆れた様子こそ見せたものの、特にそれ以上は追及することもなくベッドサイドまでゆっくりと近づいた。

「仕事は」
「……あったんだけど」

 言い淀む私の携帯端末の画面にはいくつかの通知、どれもこれもメンション先は私個人ではなく、全体連絡。私でなくとも良い、私の必要ないタスクの積み重ね。だとしても人員は余っているわけでは、ない、のだけど。

「……所長が」
「はっきりしろっての」

 言い淀む私に、彼——ランサーのクー・フーリンは、呆れたように深く息を吐いた。

「ちょっと……その……燃え尽き症候群といいますかね」

 起き上がり、隠していた包帯でぐるぐるの左腕を持ち上げて、私は居心地の悪さに目を逸らす。

「つい……うっかり、ちょっと油断して、怪我を……」

 それで、「怪我の療養ついでに数日休んできなさい」と言われ—— 

「戦力外通告で拗ねてるっつーことか」
「違う、別に……戦力外とまでは……」

 でも実際そういうことかもしれないのである。
 今はたまたま重大な問題が起きていなくて、たまたま少しだけ猶予があるというだけ。次に特異点が起きるのがいつなのかはわからない、明日かもしれないし、今日この後すぐなのかもしれない。そうでなくても敵襲の可能性だってある。
 とにかく今このカルデアの状態はこれまでと変わらず不安定で、これまでと変わらず危険は必ずどこかからやってくる——のに——

「私みたいな……ぼんやりしたやつが現場にいるのは邪魔になる……から……」
「めんどくせえなぁ」

 自己嫌悪で沈む私に厳しめの一言。まぁでも自分でもそう思います。特に、ランサーなんて一番嫌いなタイプの女かも。

「あー、まあ、外出て体動かしゃなんとかなるだろ」

 彼がそう言って頭を掻く。そうは言いますが、ならないことの方が多いと思うし、外に出ると言ったって行ける場所は限られてる。

「どうせ休むってなら、やりてえこととかねえのかよ」

 やりたいこと、やりたいことかぁ……

「ない……ことはない、けど」
「——例えば」

 真剣な顔で詰められて、ぐっ、と息を呑んだ。そんな真面目な話なんかじゃないのだ、美味しいものが食べたいとか、一日ゆっくり寝ていたいとか、服でもアクセサリーでもなんでもいいから街に買い物にでる、ということがしたいとか……——そういう、当たり前だった≠アとをまたしてみたいとか。

 ——貴方がそんな顔をしてまで聞き出すことじゃない、のに。

「なんでそんなに……私が望みを言って、叶えて、元気になったって貴方の欲しいものが出てくるわけでもないし、私が元気にならなくたって、貴方の望みは叶う時は叶うのに」
「そりゃあ、なあ」

 それはそうだろうけども、と彼が肩をすくめた。私に何かを求めているわけではないのだろうか。

「ランサーだってあるでしょ、欲しいもの……ほら、心行くまで手合わせしたい相手がいるとか。……綺麗な女の人、捕まえるとか」

 私の不躾な呟きを受け止めた後、彼は数度瞬いた。それから、何か考えるように視線を外して、またゆっくりと私を正面から見つめ直す。

「戦いも、誇りも、誉れも、酒だってあればあるだけいいけどよ」

 いつのまにか後一歩のところまで距離を詰めて、彼は言った。

「お前がそんな顔してちゃ、俺はつまらねえな……——」

 そう言って、呆れたように笑う。
 今度は私が彼から目を逸らして、熱い頬を隠すようにまた枕に顔を埋めた。「じゃあ、しかたないね」なんて、言ってみると、彼の方からも「ああ、仕方ねえだろ?」という言葉が返ってくる。

 それだけだった。それだけのことで、今こんなにも胸が煩く鳴っていた。
 




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