人類最古のショッピングデート



 シミュレーター使用の許可は思ったより簡単に出た。そんな個人的な事情に他のスタッフを付き合わせるのは、と最初は躊躇したのだが、「訓練だと思えば良いんじゃない?」とダヴィンチちゃんが笑って言った。オルガマリー所長でさえも「藤丸よりも実地訓練が足りていないのは事実よ、何かが起こる前に、余裕のある時に備えておくのは大事ね」と賛同した。あまりにもすんなり許可が出たもので驚いていたが、後から聞いたところによると立香ちゃんとマシュが口添えをしてくれていたらしい。私たちよりずっと大変な思いをしていた彼女たちなのに、本当に頭の上がらないことだ。

「過去に再現したことのある場所ならいますぐにでも行けるよ。どこにする?」
「……そうですね……」

 そう言って画面を覗き込むダヴィンチの声を聞きながら、私はその場所・・・・を行き先に指定した。



 
「フハハハハハ!!!! 真っ先にこのウルクを選ぶとは、なかなか良いセンスだ、褒めてやろう!」
「……相変わらず偉そうな金ピカだぜ」

 顔を顰めたランサーに苦笑いを返しながら、私は再現されたウルクの街を歩く。意外にも同行を快諾してくれたキャスターのギルガメッシュの上機嫌が、有り難くもあり恐ろしくもあった。——再現されただけの偽物に何の価値がある。……などと、にべもなく断られることを想像していたのだが。

「……自分の統治していた国が選ばれて、満更でもない、とか?」
「……俺が知るわけねぇだろ……」

 こっそりとランサーに耳打ちをするものの、ウルクの賢王の心情などは、我々では推し量ることすらままならない。とにかく「機嫌が良い」ということが事実であれば、理由などは一旦置いておこう。

 しかし思うに、一番の理由は——

「すごいね、本物みたいだ。……このリンゴも食べられるのかな」

 そう言って店先の果実を手に取った緑髪の青年——エルキドゥがここにいることなのだろうとは思う。

「フン、それは我よりそこな魔術師の方が詳しいであろう」
「あっ、わ、私ですか」

 当然だ、と言うようにギルガメッシュが目を細めた。

「ええと、そうですね……食べたことのあるものなら味も再現されますが、結局は本人の記憶からそういう錯覚≠起こしているにすぎませんから、正確な再現というわけではなく……」
「つまり?」
「食べたつもりにはなれます」
「そうなんだ」

 それだけを言って、彼は赤い果物を元あったように陳列する。

「……んで、ここで何がしてぇんだ? まさかその味の錯覚とやらを楽しみに来たわけじゃねぇんだろ」

 そうだった。

「ああ、ええと、王様。探したいものがあるのですが」
「なんだ、疾く申してみよ」
「その、装飾品を、選びたくて」
「——ほう?」

 賢王の片眉が上がる。そのまま黙っているのは、私に話の続きを促しているのだろう。

「人類史の消失以降、そういう余分・・を選ぶ機会もなくなってしまったので……持ち帰れないとしても、気分くらいは味わえれば、と」

 それで何がどうして、よりによってこいつの……という顔のランサーが視界の端に見えるが、一旦見ないふりをした。

「ウルクは……立香かのじょが訪れた中でも、特に活気のある、気持ちの良い都市でしたから」

 私の多少のおべっかに気付きながらも、必ずしも全て嘘というわけではないことも理解したのか、ギルガメッシュは赤い瞳を細め、鼻を鳴らして笑みを深くした。

「それで、この我の助言が欲しいと立香マスターに泣きついたということか」

 泣いてはいないが、そういうことにしておこう。

「ふっ……フハハハハハ! 良いだろう! 少しばかり付き合ってやろうではないか、光栄に思うが良い!」
「良かったね」
「お……お手柔らかにお願いします」

 ……ここにきて、同行者の選出を少し後悔し始めていた。



「あの……ギルガメッシュ王、申し上げにくいのですが——これは、流石に私には派手すぎるかと」
「何を言っている? 充分控えめ・・・めはないか」

 そりゃあ、貴方がつければそうかもしれませんが。
 賢王の選んだ装飾品は、どれもこれもが一級品。ギルガメッシュやエルキドゥのような眉目秀麗な者がつければバランスも取れるだろうが、私などではそれを引き立てるための「アクセサリースタンド」、いや、それにすらなれない可能性すらあるほど、煌びやかで……そしてなにより、量が多かった。

「それにこんなにあっても、選びきれません」
「……ふん、選ぶ必要などなかろう? そもそも、これはシミュレーターの——」
「ギル、これ、見てくれるかい」

 エルキドゥの呼びかけにギルガメッシュが振り返る。二人が隣の露店についてなにやら話し始めたのを横目に、私は手にしていたギラギラの装飾品を全て店の棚に戻した。
 まぁ、確かに。本当に持ち帰れるわけではないのだ。どれかひとつだけ……などを選ぶ必要性はないのだけど。

「……そういう、選ぶ、っていうところも含めて、それらしいことをしたかったんだよな……」

 はは、と自分に苦笑を漏らす。……そういえばランサーは? ということを思い出し、周囲を軽く見渡すと、少し離れた店先に彼の後ろ姿を見つけた。王様達からは離れたところにいる辺り、もうアクセサリー探しと賢王の案内には飽きてしまったということだろうか。

「ランサー、何見てるの? 何か美味しそうなものでも……」

 彼の背中に声をかける。彼のことだ、てっきり酒かつまみになりそうな食べ物でも見つけたのかと思っていたのだが、意外にもそこも装飾品の並ぶ店だった。なんだ、彼も意外と興味があったのか、とその視線の先を追うと、真っ赤な宝石のはめられた耳飾りがそこにはあった。彼の瞳と同じ色だ。

「……へえ、綺麗……」

 どことなく、ランサーのつけているものに形も似ている。きっと、彼がつけたなら似合うだろうと思う。
 彼はそのイヤリングを手に取って、何かを確認するようにそれを光にかざしていた。「気に入ったのならつけてみたら?」と声をかけると、彼は「そうだな」と返事をしてから、おもむろにその手を私の方に伸ばした。

「えっ」

 そして、私の耳に微かな重さが乗る。

「……似合うじゃねぇか」
「あ……、り、がと……」

 彼が微笑みながらこぼしたその一言にどれだけの意味があったのかはわからなかった、けれど、私にはそれで充分だった。

「…………これにしようかな」
「いいのか? あいつの勧めたやつじゃなくて」
「多少機嫌は損ねるかもしれないけど……でも、いい、もう気に入っちゃったから」
「そうかい」

 戻ったら似たようなもの探してみようかなぁ、と笑う私に、彼はもう一度「そうかい」と呟いた。

「おーい」

 視界の端で、エルキドゥが私たちを呼ぶのが見える。行こうか、と私はランサーの手を引いて、彼らの方へ一歩を踏み出した。
 
 




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