水着円卓の洗礼



 ——目を開けるとそこは、 円卓の騎士楽園 イケメンパラダイスだった。
 
「こちら、トロピカルジュースです。それから、貴女に花を……嗚呼、とてもお似合いですよ、レディ」
「麗しき貴女、ガウェイン卿だけではなく、このランスロットにも、貴女の隣に座る許可をいただけますか?」
「私は哀しい……両隣を取られてしまっては、私にできるのは貴女の正面でこの弓を奏でることだけ……せめてこの音色で、貴女に安らぎを——」

 歯の浮くようなセリフの中、聴き慣れたため息と呆れた声が一つ。

「それで、何がどうしてこうなるって?」

 ——いやぁ、あはは。私も女の子でございますので、見目麗しい男性にチヤホヤされたいという欲が人並みにはありまして。

 さすがにランサーを連れてきておきながらこれはどうなのかと自分でも思ったが、まぁまぁ、彼もよく綺麗な女の人に鼻の下を伸ばしているのを考えれば、これくらいは許されるのではないでしょうか。

「ふふ、やはりクーフーリン殿が気になるご様子。——しかし、レディ、どうかこの騎士ガウェインの瞳があなたを映していることもお忘れなく」 
「は、はわわ……」
「……——」

 人間ってほんとに「はわわ」とか口にすることあるんだな。とでも言いたげな顔をやめなさい、頼むから。

「——楽しんでいますか?」

 かつ、かつ、とヒールの音を響かせて、シミュレーターで再現された、カジノキャメロットの奥からアルトリアが歩いてくる。もちろんルーラーの——あの、バニーの姿のアルトリアが。
 かつて水着剣豪騒ぎのあったあの夏の日、ラスベガスに出現した一夏のバニー姿……ラスベガスで水着剣豪のバニー……? 冷静に考えるとやっぱり変だな……。

「も、もちろん、楽しませてもらってます……へへ、ほんとに」
「それは何よりです。……モードレッドやベディヴィエールにも声をかけていたのですが、ここにいる三人のアロハ騎士以外は都合がつかず……」

 申し訳なさそうに目を細めたアルトリアの言葉に、執事服のモードレッドとアロハのベディヴィエールを想像する。確かに少し見たかった気もするが、流石にそこまで用意されては私の心臓ももたない可能性も……というか、アロハ騎士ってなんだろ……やっぱ変だな……なんだったんだろうなあの特異点は……。

「浮かない顔ですね……私の演奏がお気に召さなかったのですか? ご希望があれば、なんなりと。この弓と音色は、今だけは全て貴女のために……」
「グラスも空いているようだ、何がご希望かな? 私のおすすめはこちらのドリンク、口当たりも良いが見目も美しく……ああ、ご婦人、まるで貴女の笑顔ようだ」
「わ、わぁ……」

 これは、うん。頼んだ時からそうだなと自分でも思っていたけれど——さながら女性向け恋愛シミュレーションゲームの様相を呈しているかもしれない。そう思うと、うっすらとあの贋作英霊事件のジャンヌ・ダルク・オルタの顔が浮かんでくる。……本人は思い出して欲しくないだろうが。
 そんなことを考えていると、アルトリアが私のすぐそばに来て囁いた。

「では、せっかくですので、カジノの方でも遊んで行かれますか?」
「カジノ? あ、ああ、そうですね……じゃあ、お願いしてもいいですか?」

 もちろん、と頷いて、彼女はいくつかの卓を案内してくれる。ポーカー、ブラックジャック、バカラ……最後に連れて行かれたルーレットの台で私は足を止め、「初心者向けですよ」という甘言に乗って遊興用にと渡されていたチップを取り出した。 

「なら、俺も参加させてもらうかね」

 適当な数字に手を伸ばしかけた手が止まる。驚いて顔を上げると、いつの間にか真横に並んでいたランサーがコインを雑に投げるのが目に入った。

「機嫌悪そうにしてたし、乗ってこないかと思った」
「……誰のせいだと思ってやがんだ。まぁ、いいさ、コレは楽しそうだしな」

 さりげなく私の腰を抱き、引き寄せる。それは彼にとっては特に大きな意味もない行動なのだろう。だが、私にとってはそうではなく……

「んで、お前はどこに賭ける? マスター」

 そういって至近距離で覗き込まれるその赤い瞳が、今日聞いたどんな口説き文句よりも、一番——

「おやおや」

 そうこぼしたのはガヴェインだったか、トリスタンだったか、ランスロットだったか——いずれにせよ、その声にハッとしてランサーを腕で押し退け、「近い」「変なところ触らないで」「はなれて」と悪態のようなものを吐いてみてもあとの祭り。私はアロハ騎士たちのぬるく優しい視線に晒されながらルーレットを遊ぶハメになった。
 
 まぁ、それとは関係なく、二人揃って仲良くカジノは負けたのだが。
 




clap! 

prev back next



top