全ての祭典もローマに通ず



 次はなにをしようか、と考えながらランサーと二人廊下を歩いていたある日。なにやら食堂の方が騒がしく、不思議に思って覗いてみると——見たことのない規模のパレードがそこで行われていた。

「……なに、これ」
「おお! よく来たな、お前たち!」

 頭上の……高台……? のようなステージの上から、ネロの可愛らしい声が降ってくる。見上げると、ニコニコと満面の笑顔を浮かべた彼女が、満足そうに頷いていた。

「ネロ皇帝陛下……これは……どういう……」
「うむ! これはだな——祭りである」
「は……はぁ……」

 つまり、どういうことだ。

「まあつまりは——ローマである」

 奥からロムルスまで現れた。でも特に説明に進展はない。というかこの大騒ぎ、所長に怒られないのだろうか。

「無論、所長に許可は取っているとも!」

 今度はカエサルだ。なんとなくわかってきた、これはつまり……ローマの祭典らしい。しかし、彼まで出てくると言うことは、何か金儲けの気配でもあったのだろうか。

「それより……ご婦人、この祝宴の中、いつも通りの装い、というのも味気ないとは思いませんかな?」

 あったのだろうな。

「……と、言いますと?」
「今、私のところでは貸衣装≠ネるものをやっていましてね……貴女に似合うものもあると思うのだが、どうかな」

 ずらり、と並んだ衣装はどれも彼らの伝統的な衣装のようで、ギリシャ、ローマ、ときいて想像する通りのような服が色々と揃っていた。
 ……本当に、色々ある、が——なんか、流石に全て布≠キぎるな……?

「でもこれ……ちょっと心許ないかも。ほら、職員用の服はパンツスタイルだし、あんまり慣れないと言うか……」
「——良いじゃねえか、着てみろよ」

 言い淀む私の横で、ランサーがあっけらかんと言い放つ。

「えっ、でも……うーん」
「他にも着てるやつが居るみたいだぜ? ほら」

 くい、と彼が顎で指した先では、他の職員がギリシャ風の服装で笑い合っていた。なるほど、思ったより気楽に楽しんで良い催しみたいだ。

「……じゃあ、まあ。ランサーがそういうなら……着てみようかな」
「——おお! それでは、どうぞこちらに……」

 カエサルに案内され、仮設された更衣室の中で彼の選んだ衣装を身に纏う。着方はこう、という説明をされはしたのだが、やはり現代の洋服以外は着慣れておらず、着替えに少々手間取った。

「まだかぁ?」
「い……いま出る!」

 なんとかそれらしく整ったのを確認し、おずおずと彼の前に出る。変ではないだろうか、と不安に背を丸める私をてっぺんから爪先までじろじろと見た後に、「良いじゃねえか」と満足気に頷いた。

「そう? ……でもやっぱ、ちょっと落ち着かないね」

 足元がスースーして……と言いかけて、彼の大きな手のひらが私の尻を揉む。

「ぎゃ!?」
「なんだ、中は履いてんのか」
「あ……当たり前だろバカ!」

 ばしん、と彼の背中を平手打ちするが、彼の体幹では微動だにしなかった。それとなくムカつく。

「お気に召しませんかな? で、あれば、他の文化圏の衣装も用意できるが……」

 次にカエサルが出してきたのは、また違ったテイストの衣装だった。なるほど、これなら確かに今のものよりは布面積も多い。そう思いながらチラリと彼の顔を伺いみる。

「ランサー的に馴染みがあるのはやっぱアイルランドの民族衣装? あれ、可愛いよね、私好きだよ」
「まぁ俺らの時代にはなかったけどな、聖杯から与えられた知識って点ではどれも変わらねえ気もするが」
「へー……」

 神話生まれのサーヴァントの意識としては、そのような感じなのか。
「気になんのか」
「え!? あ、いや……」

 思ってもいなかった質問にしどろもどろになりながら、どう答えようかと考える。本当のことなんて言うのも恥ずかしいし……——いや、だけど、本当のこと以外、どう誤魔化して良いのかも思いつかない。
 ——ならば仕方なし、と、私は腹を括った。

「……衣装っていうか……その——ランサーはどういう服が好きなのかなー、って……」
「……ほう?」

 だから、つまり——貴方にとって好ましい私であれればな、ということなのですが。
 その意図が正しく伝わっているのかいないのか、彼は意味あり気に一言つぶやいた後、しばらくシン、と静まり返ってしまった。せめて何か言ってくれよ、と俯きかけていた顔を上げると、やけに愉しげに口角をあげている彼と目が合った、合ってしまった。

「まあ、俺もこだわりがあるわけじゃねえが……——もちっと出すとこ出してた方が、似合うと思うぜ?」
「……っ、馬鹿! ランサーのそれは下心じゃんか!」
「わはは!」

 言葉ではそういってみたものの、さりげなく腰を抱き寄せる彼の腕を振り払うことはできず。それがまたいっそう悔しくて——けれど、不思議と嫌な気持ちではなかった。
 
 その祭典は結局ネロとエリザベートのコンサートにより強制的に終了したらしい。らしい、というのは、私たちは二人だけでその喧騒を離れてしまい、ことの次第は後々に他の職員やサーヴァントから聞くことになったからだ。……まあ、カエサルには色々と感謝をしたいところではあるし、あの時稼いだ金がどうこう——という話は、所長には告げ口しないでおこうと思う。




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