聖なる物者、とは



 少し、真面目な話。やりたいことリストのひとつに——神様について学ぶ、というのがある。
 私の生まれ育った国、日本では、神仏習合というものがあるくらいだ、割とそのところは曖昧だったかな、と思う。ただ、私の家庭がそうだっただけかもしれないが。

 しかしさまざまな神話をルーツにしたサーヴァント達、そして、特異点や異聞帯を巡るうちに、もっと良く知りたい、知るべきだと思ったのだ。それは決しておかしなことではないはずだ。

「主について、ですか」

 私の取り留めもない質問に対し、ゲオルギウスは優しい目をして微笑んだ。

「神の愛というのは……そうね、あえて言うなら——」

 聖女マルタは、 いつもの・・・・調子で言葉を尽くしてくれた。

 他にも幾人かの聖職者と呼ばれるサーヴァントたちに話を聞く。そしてなんとなく、自分の中で「神とはなにか」という問いに答えが浮かび始めた頃、彼女が私に声をかけた。

「貴女は——主に懺悔したいことがあるのですか?」

 救世の聖女——ジャンヌ・ダルク。彼女に声をかけるのを後回しにしたことに、特に大きな理由はなかったが……しかしこのように指摘されると、私も芯を突かれるのが嫌だったのかもしれないなという気がしてくる。

「それは、まあ。世界を救う間に——いくつかは」

 指折り数え、すぐに折る指がなくなったことを誤魔化すように笑った。告解を求める理由はそれこそ星の数ほどあるけれど、無宗教家の私としては、どれも自分でどうにかするしかないのだと全て飲み込んでいるのだ。
 けれど、それを打ち明けて、神の赦しを得る——それこそが信仰の理由の一つだというのなら——なるほど、信仰というのは、確かに救いなのだろう。

「……神様とは何かな、ということを考えていまして」
「それで、大聖堂に?」
「ええ、まあ」

 シミュレーターでの再現ではありますが、と頬をかく。

「あまり……そのようなことには馴染みがなかったのですけど、なんとなく、私なりに理解できるものがあった気がします。——少なくとも、今際の際に何かを信じていられたのなら……それ自体が、救いになるのかな、と」
「——……」
「あ……ごめんなさい、失礼だったかな、その…… 貴女 ジャンヌ・ダルクに対して……」
「いいえ……——いいえ、信仰は自由ですから。何を信じていても……いなくても」

 その聖女の言葉に合わせるかのように、聖堂が一際大きく鐘を鳴らした。


 シミュレーターを出ると、部屋のすぐ外にランサーが立っていた。「満足したか」という問いに一度だけ頷いて、私は彼と並びたって歩き出す。

「ランサーは……神を信じてる?」
「信じるも何も、俺がそっち神話側の英霊だからな」
「そっか……」

 シミュレーター室と自分にあてがわれた個室まではそれなりに長い廊下が続いていた。カツ、コツ、と響く二人分の靴の音を聞きながら、私はぼんやりと自分の思考をまとめ始める。

「……じゃあ、神を信じないとなると、貴方の存在も信じないということになるのかな」
「あー……どうだかな」

 興味がなさそうな返答に、微かに笑いが溢れた。

「それは、困るか。——じゃあ、信じるよ」

 軽いねぇ、と、あちらも軽い返事。

「言われたからね、自由だって」

 早足で数歩分彼の前に出る。振り返って、見上げた彼は少し驚いたような、しかしいつも通りのなんの変哲もない表情のまま、私の目の前で足を止めた。

「私、信じるよ、貴方の神話も、神様も。……そしたらきっと、この旅も最期まで幸せだったって胸を張っていられそうだから!」

 これが、今の私に出せる結論。
 もっと多くを識って、もっと長く考えれば、違う思いも生まれるのかもしれない。けれど今だけは…… 

「——そうかい」

 そういって呆れたように笑った彼の存在こそが、私にとって信じられる一番のものなのだ。




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