誰が一番大切なのか、誰と一緒にいたいのか ――綺麗な灯火だと思った。
「夢火、ねぇ」
虹色に光るそれを、マスターが手にしたのはつい先ほどのこと。本来ありえない奇蹟を見せる灯火≠セとかなんとか。とにかく「大切な者に渡すといい」と言ってダ・ヴィンチが彼女に手渡していた。
(大切なやつか)
彼女が誰に手渡すのか予想はつく、多分、オルタのオレ、だ。
別に自分を小さく見ているわけじゃない、実際、これ以上の成長はない≠ニわかってからも、マスターは度々オレをレイシフトに同行させてくれているし、頼られている自覚はある。しかし最近のこいつがオレよりもオルタのオレを連れ回しているのも、事実だ。
なにせあいつは(なぜか)オレよりも素の性能は良い、それにクラスはバーサーカー、敵がどんな相手だろうとこちらは有利を取れる。
だから、それは当然の結果であり、仕方のないことなのだ。だから……
(……だから、なんだ、オレらしくもない)
隣に並んだマスターの横顔をちらりと覗き見る。彼女はダ・ヴィンチの工房を出た時から変わらず、手にした夢火をキラキラした瞳で見つめ続けていた。
「前見てねぇと、転ぶぞ」
「え? あ、うん、ごめん……あまりに綺麗で…」
もうちょっとだけ、と彼女は未だにそれから目を離すつもりはないようで、ゆっくり、ゆっくりと彼女の自室の方へ足を進める。
「いいなー、綺麗だなー……手放すの、少し惜しいなぁ」
本当にそれが気に入っているのだろう、そんなことを言いながら台座を撫で、揺れる炎に感嘆のため息を吐いていた。
「そんなに気に入ったなら取っときゃいいんじゃねぇの?」
「……うん、でも、素敵な物だからこそ渡したいから」
よし、と覚悟を決めたように頷いてから、彼女が急にこちらへ振り返る。
「はい!」
ずい、と目の前に差し出されたそれを反射的に受け取った。手元で燃える七色を見つめながら思わず「なんで」と呟いた。
「?」
視線を上げると、キョトンとした表情の彼女と目が合う。まるで俺に渡すのは当たり前だという顔をしている。
「いらないの?」
「あ、いや……オルタのオレじゃなくていいのか」
「え? うん、なんで? 変なランサー」
ふふ、と微笑んだ彼女が「早く行こう」と自室へと歩き出す。前を行く彼女の表情はうかがい知れないが、わずかに見える耳が赤く染まっていた。
――『大切な者に渡すといい』
ダ・ヴィンチのそんな言葉を思い出し、なんだかオレまで照れ臭くなる。
「……感謝するぜ、マスター。前にも言ったが、重宝してくれるってんなら死力を尽くすぜ……お前の槍としてな」
「へへ、うん」
彼女の少し後ろをついて、歩く。さっきはオレらしくもないことを考えたりもしてしまったが……頼りにされているのは、あぁ、悪くないもんだ。
手にした灯火はむき出しにもかかわらず、思いの外熱くはない。
けれど、胸の内には何故だか温かいものが広がるのを感じた。
clap!
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