愛の霊薬作戦




 ――疲れたでしょ、とりあえず、何か飲みなよ。

 そう言って彼の前に出したるこの飲料、何を隠そう、一服盛っているのである。

(……飲むか?)

 ゴクリ、息を飲んで、グラスを手にした彼を見守る。今回使用した薬は愛の霊薬=B渋るパラケルススに頭を下げ、どうにか手にした一品だ。

 話によると相当な効き目を持つとのことだったので……大事をとって少し薄めて使用している。

「……」

 怪しまれているのだろうか、注がれている液体を真顔で見つめる彼は、何も言わずにグラスを回してその水面を揺らしていた。飲み物を提供しただけで「お前が気を使うなんて珍しいな」とでも言われているようで少々気にくわないが、一口でも飲ませればこちらのもの。今日こそは私にメロメロになって余裕のないランサーの姿をこの目に収めてやる…!

 私の気持ちを知ってか知らずか、彼は視線を私に移し、依然無言のままグラスを持ち続けている。私が「なにか?」と平静を装うと、彼は「いや…」と言いながらそのグラスに口をつけ一気に傾けた。

(やった……!)

 勝利を確信した私の目の前で、彼は口の橋を手の甲で拭う。そして次の瞬間、彼の魔力が少し膨れ上がった。

「……あれ?」

 即効性のあるものだときいていたのだが、彼の様子に変わりはない。不思議に思い首をかしげる私に、彼は「まさか自分のサーヴァントの能力を覚えてないわけないよな」といって私を見た。

「……!! スキル、仕切り直し=c…!」

 効果は弱体無効=B私は、しまった、と頭を抱えてから、「なんでそんなことするんだよぉ」と彼に詰め寄った。

「やっぱり何か盛ってやがったか」

 どれ、とランサーが私のポケットに手を入れる。私が止める間もなくそこにあった小瓶を取り出した彼は「愛の霊薬、ね…」とその小瓶の蓋を開ける。

「な、なにを……、……あっ! わ、私は飲まないからね! 絶対飲まないからっ…!」

 もしかして、彼はそれを逆に私に飲ませるつもりなのか、と思い両手で口を塞いだ。彼はちょっと考えるそぶりを見せてから、その霊薬を一気に飲み下した。

「えっ……それ、原液……っ!」

 驚いて彼の手から空になってしまった小瓶を奪う。もしかしたら飲んだフリをして私に飲ませる作戦かもしれないとも思ったが、彼は空になった口の中を見せつけるようにしながら「まじぃな」と言って舌を出した。

「な、な、な、なんで」
「お前が飲ませようとしたんだろうが」

 それはそうだけど、と怯んだ私の腕が引かれ、バランスを崩した私は彼の胸に飛び込む。視線を上げると、熱を持った瞳で私を見つめる男と目があった。

「……それで、俺にこれを飲ませてどうしたかったって? マスタァ」

 その質問に答えようと開いた唇が塞がれる。さて、今夜の私は作戦通り彼より優位に立つことが出来るのだろうか。

 ――それは、二人のみが知る……ということで。 





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