仁義も理由もない戦い



「殿様〜〜!!」
「あれ、森くん?」

 騒々しい足音と声とともに、森くん……バーサーカー森長可が駆けてくる、それはもう、清々しいほどの笑顔で。

「殿様ァ! 茶会の準備ができたぜぇ!」
「ありがと〜……? 森くん? ほ、本当に茶会?」
「? おう!!」

 わぁ、大きな声でいい返事だなぁ、うん。だが私がついついそう聞いてしまったのにはもちろん理由はあるわけで。

「そっかぁ〜……ところで森くん、どうして頭から血が流れているのかなぁ〜……」
「あぁ、大したことねーよ! ほとんど返り血だしな!」
「……なんでかなぁ〜」

 あぁ……と思わず痛んだ頭を抱える、確か話はこうだ、私のために茶会を開いてくれる、と……それで、準備をするから少し待っていてくれ、と……。

 それだけの、はずだ。

「いやぁなんかよぉ、俺が殿様を探してたら邪魔して来た奴がいたからぶっ殺してきたぜ」
「…………う、う〜……ん」

 卒倒しそうだ。

「も、森くん……何度も言っていると思うんだけど、ここにいるのは味方なんだって、殺しちゃダメなんだって……」
「けどよぉ、俺は殿様のために茶会の準備をしてたわけだろ? それを邪魔するってことはつまり、殿様の敵だろ」
「そうとは言えないんじゃないかなぁ〜……」

 ……ともかく、森くんに言い聞かせるのは後だ、被害者……いや、犠牲者か? が誰か確かめなければ。サーヴァントの誰かならまだしも、もし職員の誰かだったりした日には……どうしよう。いやしかし、もしかしたら本当に敵や侵入者だった可能性も……

「その、殺した……っていうのは、どんなやつだったの?」
「ンン? いつも殿様の隣にいる青い奴」
「いやランサーじゃん」

 絶対敵なわけないじゃん? とりあえず相手がランサーなら死んではいないだろう、が、しかし、そんなあからさまに味方のサーヴァントですら敵認定をされていたのでは、この彷徨海に平和など一向に訪れない。

 改めてきちんと言い聞かせようと彼の顔を見上げ──そこにあるはずの頭部がなくなっていることに気づき、私は悲鳴をあげた。

「ひっ……!? ぎゃあああああ!!」
「可愛げのねぇ悲鳴だな」

 そう言ったのは森くんの背後に立っていたランサーである。森くんに殺されたはずの。

 彼の声で少し冷静さを取り戻し、取り戻、取り戻し……た(?)私は彼も森くんに負けず劣らず血濡れで立っていることにまた驚く。なにも言わないまま目を白黒とさせている私に、彼は「戦闘続行のスキル持ちじゃなきゃまじで座に帰るとこだったっっつーの」とぼやいた。よく見ると彼の持つ槍、ゲイ・ボルクの先が赤く染まっている、いや、元から赤いのは赤いのだけれど。

「な、ま、まさか、これ、ランサーが」
「あ? まぁな……おいおい、怒んなよ? 先に喧嘩吹っかけてきたのはそいつの──」

 言い終わらないうちに今度はランサーの身体が吹き飛んだ。低い声で「殺す、絶対殺す、テメェの首は俺が落とす……!」と唸る森くんの声に彼を見上げると、消えたはずの頭部がすでに元に戻っていた、鎧の力とわかっているとはいえ普通に怖い。

「も……森くん、落ち着いて、お願いだから、ランサーも…」

 頼むからここで突然命の取り合いをするのはやめて欲しい。そもそも彷徨海の中では私闘は禁止だと…言ってもきかないだろうが、こと森長可《バーサーカー》に関しては。

「いっ……てぇじゃねぇか! はっ! 良いぜ面白くなってきたなぁ!!」
「テメェまた俺と俺の殿様の邪魔すんのか? じゃあテメェは俺の敵だよなぁ、延いては殿様の敵ってことだよなぁ!? ようし殺すテメェの首もらってやらぁ!!」

 バーサーカーほんとうにはなしをきかない、マスターちょっと泣きそう。

「〜っ、ランサー! とりあえず落ち着いてなにがどうしてこうなっているのか教えて欲しいんだけど」
「ちょっと待ってなマスター、話ならこいつを叩きのめしてからきくからよォ!!」

 ──ダメだ、森くんどころかランサーまで話を聞かないモードになっている……というか少し楽しんでいるな、こいつ……。

「えぇーい! なんの騒ぎじゃ……うおおおお!?」

 喧騒を耳にして駆けつけたアーチャー信長が森くんの宝具に巻き込まれる。今の森くんには大殿のことも見えていないのだろう、可哀想に。あぁ、そうしている間にもまた犠牲者が──


 
 そしてこの後二人はやはりというか、意気投合し、後日、楽しげに肩を組んで話すランサーと森長可の姿が彷徨海のキッチンで目撃されることになるのである。

 マスターは誰に話すでもなく一人呟く。

「……だったら最初から問題なんて起こさないでくれよなぁ…」

 無理なこととはわかってはいるものの、思わずそう願わずにはいられないのであった──




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