BBチャンネル特別編♡




BBチャンネル特別編♡
〜なんだかとってもE気分?〜



「うおおおおおおお!!」
「んわああああああ!!」

 これは、この危機的状況は、彼ら彼女らの不運によるものなのだろうか。幸運値Eのサーヴァント、そしてそのマスターは、サクラメイキュウ≠ニ呼ばれるダンジョンで、猛ダッシュで何かから逃げるために駆け抜けていた。

「ララララランサー!! どうにかしてよアレ!!」
「だーっ! 無理だっつーの!! お前がよく分かってるだろ今の俺のステータスをよぉ!!」

 彼と彼女の後ろを追うのはBBの作り出した攻勢エネミー…ただし、そこまで強いわけではない、常時の二人であればすぐにでも片付けられる程度の敵だ。

 ならばなぜ、逃げ続けているのか。答えは簡単だ、「常時とは違うステータスである」からだ。

「なんで幸運値以外のパラメータも全て軒並みEに下がってるのさー!!」

 悲痛な彼女の声がダンジョンに響く。呼応するようにして、この騒動の元凶が笑うような声が聞こえた。

 

 そもそもなぜこんなことになっているかというと――BBのせいである。また、これを仕組んだのは誰か――BBなのである。そしてこの事象で楽しんでいるのは誰か――無論、BBである。

 とにかく全てBBが悪い、特異点としては修正が終わったはずのこの場所に、そもそもレイシフトを行う必要すら本来はなかったというのに、BBの突発的な思いつき…悪戯…なんというか、そういうものに付き合わされているのが現状だ。

「あーっ、非道いですねセンパイ! 私は惨めなセンパイとランサーさんのために、修行の場所と敵を提供しているだけじゃないですかぁ〜」

 その惨め≠ニいうのは私単体に掛かっているのか、私とランサーに対して掛かっているのか、神埼涼はそんなことを考えながら半透明な床の上を走り続ける。

「おいマスター、行き止まりだぞ……!」
「大丈夫! マップによるとその下にもう一つ足場がある!」
「おう! ……下?」
「うん! 飛び降りるよっ!!」

 待て、とランサーが制止する声もなんのその、彼女は迷うことなくマップの端からその下の階層へ、跳んだ。

「うわぁ……そんな大脳が筋肉でできていそうな方法で地下に潜った人初めて見ました…まぁ普通はそんなことできないんですけどね? 今回は特別にこのBBちゃんが許可してあげまーす♡」

 ぽきゅ、といういつもの可愛らしい音と共に虚無であったこの空間に足場が現れる。だがそれは彼女の想定よりも下層…どれくらいの高さかといえば、着地すれば足の一本は折れるであろうというくらいには遥か下方のことだった。

「まずっ……ランサー! 着地任せた!」

 そう言って彼女は体を丸める。内心(一回言ってみたかったんだよね)なんて心を躍らせたのは、彼女だけの秘密だ。

「……っ、この阿呆……! 文句は言うなよ……っ!」

 そう彼の声がしてから、彼女の身体は温かな腕に抱かれる。お姫様抱っこのように……ではなく、そう、ジャーマンスープレックスをかける時のように、背中抱きの形で。

「なん――」
「口閉じてろ! 舌噛むぞ!」 

 彼に声をかけるより早く、全身に衝撃が走る。そう、着地ではなく、二人は階下に落ちたのだ。
 だがしかしそれでも彼女の脚は折れてはいない。起き上がった彼女は、自分の下敷きになっている自身のサーヴァントの肩を思い切り揺すった。

「ま……任せたって言ったのに! なんで!? なんで落ちてんのさぁ!!」
「っでぇ……! だから言ってんだろ、パラメータが異常値になってるって…筋力もEまで下げられてんだよ、とっさにお前を抱えたりなんかできるわきけねーだろ!」
「な」

 盲点だった。彼女はそれをすっかり忘れていたらしく、しまった、と言う顔で固まった。とりあえず避けてくれ、という彼の言葉に素直に従ってから「ご、ごめんね……」と小さな声で謝罪する。

「ん? いーぜ別に、逃げ切れたし、てめぇに怪我はなかったんだしよ」
「うん……でも、重かったでしょ」
「まぁな」
「……嘘でもそんなことないって言えよ、おたんこなす」
「いてっ」

 ぽかり、彼の胸を軽く叩いてから最後に「ありがとう」と呟いた、付き合いの長い彼にはそれで充分だ。彼女が素直に謝罪や礼をするのが苦手だというのは、彼はよくよく理解している。

「っし、ここ離れんぞ、早いとこ戻らねぇとマジで保たねぇ」
「その前に手当て、耐久もEになってるんだから」
「お、サンキュな」
「……お礼を言われることでは…私のせいだし」
「いやまぁそれはそうなんだが」

 不得手ではあるが治癒魔術を施して、これでよし、と彼女はホッと胸をなで下ろす。無茶振りをした自覚はあるが、別に彼を酷い目に合わせたかったわけではない、だから、大事にはならなくて安心した。

「――っ、適正エネミーの声!」
「おう、急ぐぞ」

 電子マップを確認し階段のある位置を目指し走り出す。目指すはBBのいるであろう最深部だ。

 

「……ふーん、つまんないですねぇ、もっと困ったり泣いたり怒ったり諍いになったり苦しんだり喚いたり裏切ったり裏切られたりして欲しかったんですけどー……ま、最後の二つはありえませんでしたね、あの人達には。はぁーあ、退屈です。これじゃ暇つぶしにもなりません…………おや、いじめがいがある方のセンパイですか、もう見つかっちゃったんですねぇ……仕方ありません、今回はここまでで。……続きは次回、でぇす♡」

 

 ぶつん




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