覚悟



「ねぇ、どうかな、似合うかな」

 そう言って見せられたのは青い鮮やかなニット帽、正直彼女の明るい髪色にも学校の制服にも似合わなくて「あー……」と曖昧な返事をした。

「……似合わないなら、似合わないって言っていいよ、別に、ちょっと被ってみただけだし」

 俺の態度にムッとして、彼女はそっぽをむく。こいつは拗ねるとちょっと長い……どうしたもんかと辺りを見回すと、ちょうど目の前に真っ赤な耳飾りが目に入った。
 俺はそれを手に取ると彼女の耳にあてがう、あぁ、やっぱり、

「お前は赤の方が似合うな」

 そう言って笑えば、彼女は少し驚いた顔をしてから頬を染めた。
 


 ――それは、いつの話だったろうか
    今の俺ではない俺の
      座に記憶されたいつかの  記録
 
 なぜ今そんなことを、思い出しているんだろうか――
 


 閉じかけた瞼を開く、目の前に血に塗れた彼女の姿が見えて、なんだ、これのせいか、と小さく笑った。

「らん、さ」

 大丈夫、全部返り血だろ? お前が怪我をしたわけでもないのにそんな顔をするもんじゃねぇよ。

「悪ぃな、汚しちまってよ」

 彼女の顔を手で拭う、すると彼女の金の瞳が揺れて、涙が溢れた。

「安心しろ、お前の槍はまだ折れちゃいねぇよ」

 自身の胸元に深く刺さった剣を引き抜き投げ捨てる、そして敵の残党と向かい合いなんでもないよう槍を構えた。

「さぁ行くぜマスター、絶対目ぇ離すんじゃねぇぞ」

 二度とそんな心配そうな顔をしなくて済むように、俺がどれだけ強いのか見せつけてやるよ。
 そしてどうか二度と――
 
 お前がそんな顔で泣かなくていい世界を取り戻してやるさ。




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