戦闘続行



 ――あ、

 鮮血が、飛び散る。目の前で倒れる青色を、私はただ見ていた。

「らんさー……?」

 今すぐ横たわる彼に駆け寄りたい、だけど足が動かない。倒れた彼を中心として赤いものが波紋のように広がっていく。

「ら、らんさー、ランサー、起きて、まだ、敵が」

 角度が悪い、彼の顔が見えない、だけど、彼は死んではいないはず、だって、だって彼はそう、アルスターの大英雄、炎の戦士クー・フーリン、強くて、かっこよくて、こんなところで、こんな風に倒れていい男じゃないんだ。

「おきて、おきてってば、なんだよ、なんで……」

 彼の身体はピクリとも動かない、私もその場を一ミリだって動けない。

「いやだ、うそ、だってランサー、俺は負けないって、いってたのに、」

 彼の背中にいつかのあの人の姿が重なる。嫌だ、また置いていかれるのは。

「うそつき」

 せっかく、信じてもいいと思えたのに。貴方だけは、信じてみようと思ったのに。
 だけどやっぱり、あぁ、結局こうだ。ランサー、貴方ですら私を裏切るじゃないか。

 ――負けていいなんて、言ってないのに、 

「らんさぁ……っ!」

 耐えきれず目を瞑り、涙が一粒ポタリと落ちた。
 目の前に何かがやってくる気配がして――あぁ、きっと敵だ――だけど情けないことに私は顔を上げることすらできなくて、そのまま――

「……っ?」

 振り下ろされると思った剣は一向に降りない、代わりに響いた金属音に、驚き目を開くと、光を受けて輝く綺麗な青い髪が視界に入った。

 ――はぁーあ、ったく、そんな顔されちゃ敵わねぇな。

 聞きなれた声だ、望んだ声だ。私は震える声で彼の名を呼んだ。

「ランサー!」
「……は、悪いな、ちょっと眠っちまってたみたいで、よ……っ、オラァ!」

 一撃のもとに敵を斬り伏せて、彼がこちらを向く。血にまみれてはいるが、それよりも赤い彼の瞳が、「安心しろ」と言うように私に笑いかけていた。

「言ったろ、俺は負けねえって」

 弾かれるように彼へと駆け寄り、抱きつく。涙声で「ばか」と小さく呟くと、彼は
「すまん」と眉尻を下げた。

「し、心配させていいとも、言って、ない、んだから」
「いてて、だから悪かったって、んな顔すんなよな」

 彼の指が私の涙を拭う、そんなことしている場合じゃないだろう、重病人のくせに、格好つけて。
 ぴぴ、という音とともに管制室から安否の確認の通信が入る。私は無事だという旨を伝えてからカルデアへ帰還する準備を始めた。


 
 ……その後、つい、彼の手を握ったままカルデアに戻ってしまったものだから、しばらく技術部のみんなから生温かい目で見られてしまったことは、うん、私の恥ずべき記憶の一つになった。




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