『あかいおかおの〜……♪』



 あかりをつけましょぼんぼりに……♪ おはなをあげましょもものはな……♪

 共用の広間で、子供姿のサーヴァント達がそう歌っているのが聞こえる。懐かしい歌だ、私の生まれた国では良く歌われていた、ひな祭りの歌。おそらく、同じ出身である彼女たちのマスター、立香ちゃんあたりからきいたのだろう。

「こんにちは、楽しそうだね」
「あ、もうひとりのお母さん!」
「……その言い方はどうにかならないかな」
「わぁーい、ますたぁ〜」

 苦笑いを返した私に、ジャックとバニヤンが走り寄ってきた。二人の頭を撫でていると、その後ろから他の二人──ナーサリーと、ジャンヌ・ダルク・オルタ・サンタ・リリィも笑顔で私に挨拶をしてくれる。

「みんなで何をしてたの?」
「これです!」

 ジャンヌリリィが差し出した手の平に乗っていたのは和装の小さなお人形のようだった。よく見ると、なんだか立香ちゃんに似ている。そして、彼女たちが囲っていたのは赤い階段状のひな壇……なるほど、つまりこれは、

「あぁ……ひな人形?」
「「「あったりー!」」」

 きゃっきゃとはしゃぐ彼女たちは、まるで見た目通りの年齢のように思えて微笑ましい。……彼女たちもサーヴァント、その限りでないことは分かっているが、ついつい私も気が抜けてしまう。

「今はね、誰をお内裏様にするか選んでたの〜!」

 そう言って差し出されたのは首のない内裏雛、一瞬ギョッとしたが、どうやらこのひな人形は首のところが付け替えられる仕様になっているらしい。やたらと凝っているが……もしかして、ダ・ヴィンチちゃんあたりが作ったのだろうか。

「お雛様は?」
「もちろんお母さん! マシュとちょっと悩んだけど……」

 なるほどな、それで、立香ちゃんの隣に座らせるに足る男は誰かとうんうん唸っていたわけだ。

「……じゃあ、お内裏様はマシュでいいんじゃないかな」
「え?」
「むしろマシュをお雛様にして、立香ちゃんをお内裏様にするのもいいかも」
「それって──とっても素敵だわ!」

 たしかにそうです! なんで気がつかなかったんだろー! そんなことを言いながら、彼女たちはマシュと立香ちゃんの人形をひな壇の一番上に飾り付けた。並べられた二つの人形はやはりお似合いで、心なしか人形の顔がなんだか誇らしげにも見える。

「次は三人官女ね!」
「歌によると白い顔だそうですが……」
「誰がいいかな?」
「ヴラドおじさまとか?」
「ふふ」

 四人はあーでもないこーでもないと話しながら、次々と人形を並べていく。ほどなくして、決して小さくはないひな壇は、人形とひな飾りとで可愛らしく華やかに飾り立てられた。

「できましたー!」
「やったー!」
「よかったね〜」

 はしゃぐ彼女たちに「お疲れ様〜」と声をかけ、片付けを手伝おうかと残りの人形を拾い集める。……付け替えるためのパーツとはいえ生首ばかりが転がっている様は結構、物騒だ。

「……あれ」

 思っていたより、人形の体≠ェ多い。

「あ、待ってー! まだしまわないでー!」

 バニヤンが私に走り寄る、まだ? と私が首を傾げると、「もう一つ作るんだよ!」とジャックが私の後ろを指さした。

「ひな壇がもう一つ……?」
「そう!」

 なるほど、集めた人形を数えてみるとちょうど十五体、元から二つ飾りつける予定だったのだろう。

「そうだったんだ……じゃあ、こっちのお雛様は誰にするの?」
「ん!」
「……ん?」

 なんとなしにそう聞くと、四本の人差し指が私の方へと向けられる。……一応、振り向いて誰かいないか確認はしてみたが、どうやら私しか居ないらしい。まいった。つまりそういうことなんじゃないか。

「わ……私?」
「そう!」

 にこにこと笑顔の幼女たち。わぁ、好かれているみたいで嬉しいなぁ、という気持ち半分。……正直、もうそんな、お雛様なんて歳じゃないから恥ずかしい、がもう半分。

「い、いやぁ、もっと適任な人がいるんじゃないかなぁ、ほら、ここにはお姫様みたいなサーヴァントもたくさんいるし」
「いやなの?」
「嫌ってわけじゃ……ただ柄じゃないっていうか……」
「──どうして?」

 ここまで何故だか口数の少なかったナーサリーが、不思議そうな顔で私に問いかける。どうしてもなにも、と口籠る私に、彼女は続けた。

「うふふ、おかしなアナタ、今日はわたしも はれ姿=Aではないかしら」
「それは……そう……だけど……」
「でしょう? きっと似合うわ!」
「そぉ……かなぁ……」

 ……こういう時、子供の姿はしているけれど、ナーサリーは少し大人っぽいところがあるような、そんな気にさせてくる。

 まぁ、兎にも角にも、幼気な少女四人にそんなことを言われてしまえば満更でもなくなってしまうのが私という人間なわけで。ついつい自身と同じ顔をした華美な衣装の人形を見て「そうかも」なんて口元が緩んでしまった。

「じゃあ、私のお内裏様は誰にするの? それは私が選んでもいいのかな」
「「え?」」
「えっ?」

 お雛様が飾られるのを見て、なんとなく浮かれた気持ちのままそんなことを聞くと、心底不思議そうな顔で彼女たちが振り向いた。そうして互いに目を合わせたあと、クスクスと可笑しそうに笑い出す。

「あれ、えっ、なんかおかしいこと言ったかな」
「ううん、だって、ね?」
「そうですね! 選ばなくたって……」
「もう決まってるのにね〜!」
「……? 決まって──?」

 彼女たちの手元を覗き込む、そこにあるお内裏様の顔は──他でもない、私のよく知る……青髪の彼の姿だった。

「…………ほぁ……」

 それに気づいて頬が熱くなる私、そんな私を見て、得意げに笑う四人。あぁ…………他でもない無邪気な子供にこういう指摘をされているというのが、なによりもいたたまれない。

「……ほんとにかざるの?」
「ええ!」
「もちろん!」

 ニコニコ笑顔の彼女たちを止める術もなく……私は次々に飾られていく人形を何も言えずにただ見守っていた。

「できたわ! うふふ、素敵なお相手が見つかって、おひなさまも嬉しそうね?」
「そう、だね…………」

 出来上がったひな壇を見上げ、満足そうに頷いて、彼女たちは次の遊びを探して駆けていく。

 取り残された私は「彼に見られたらなんて言われるんだろうか」と、仲良く並べられた私たちの人形から目を離せないままでいた。




clap! 

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