飴の味



 ある日のカルデアのことだった。

 いつもの通りなんともなしにカルデアの廊下を散歩する。あてもなくふらふらと歩きながら、そういえばお腹が空いてきたのでキッチンにでも寄って、キャットにご飯でも恵んでもらおうかと考えていたら、ちょっとした休憩スペースで飴を食べているキャスターのクー・フーリンと目があった。

「げ」

 キャスターは見つかっちまったか、というような顔でそういうと、咥えていた棒付きのキャンディを口の中で転がした。何味の飴だろうか、まぁ何味でもいい、小腹を満たすには充分だ。

「キャスター、それ飴? 私にも頂戴」

 そう言ってニコニコと彼に駆け寄ると、少し考えるように「んー……」と唸ってから、その飴を口から出し、「ほらよ」と私に差し出した。

「……食べかけを人に渡すな」

 私が苦い顔をすると、彼は楽しそうな顔で、はは、と笑う。

「わりーな、これで最後だったもんでよ」
「……じゃあいらない」
「そーかい」

 そういうと彼はまた飴を口に含んだ。ま、これで諦めるだろ、とでも言いたげな態度に少しムッとする、面白くない。
 ……少し、からかってやろうか、

「……きゃすたー」
「ん? ……っ!?」

 私の呼びかけに振り向いた彼の唇に自分のそれを重ね合わせる。それは触れ合うだけの子供のようなキスだったがそれでも彼を驚かせることはできたようで、彼は目を見開き驚愕の表情で固まっていた。

「ご馳走さま」

 ぺろり、自分の唇を舐めると甘いレモンの味がする。ファーストキスはレモンの味などとはよく言われたものだが、なるほど、ファーストキスじゃなくてもレモンの味がすることはあるようだ。

 してやったり、という気持ちもあるがやはり少し恥ずかしく、だがキャスターに一矢報いたなら――

「ほう……? ま、その真っ赤な耳が隠せてりゃ満点だったな?」
「……〜〜〜っ!?」

 彼のその言葉で、バッ、と弾かれるように両手で耳を覆い隠した。しまった、自分から仕掛けておいて照れているのがバレるなんて、これは相当恥ずかしい。

「どれ」

 キャスターが飴を噛み砕き、残った棒をゴミ箱へ放り込みこちらへ身を寄せる。近い、と認識するより早く今度は彼の唇が私の唇を覆った。

「んんっ!?」

 しかも重なるだけの可愛いものじゃない、彼の舌がちろちろと私の唇をなぞりその隙間から侵入を試みる、まずい、

「っ、やめ、な、な、な、なんっ…!」

 なんとか身を捩り彼から少し離れる、彼の顔面を手のひらで押し返すようにすると、いてて、と言いながらもニヤつきながらまた迫ってきた。

「いやぁ? お前さんは飴よりこっちをご所望みたいだからなぁ」
「ち、違っ、〜〜〜っんん〜〜!!」

 否定の言葉ごと唇が彼に奪われ今度はガッチリと手首を掴まれ逃げることが出来ない。もはや観念して受け入れるしかないというのか。そんな時、

「……何をしているんだ君達は」
「っ、エミヤ!!」
「あーあ、邪魔が入っちまったか」

 突然のアーチャー、エミヤの襲来に、キャスターの手が離れる。私はその隙にアーチャーへと駆け寄りその背に隠れるようにすがりついた。

「う、う、う、こわかったよぉ」
「災難だったな……と言いたいところだが、大方また君からちょっかいをかけたのだろう、反省したまえ」
「えー!?」

 完全に襲われてたのは私なのに、と唇を尖らせる私を横目に、キャスターは「わかってんじゃねぇか」とご機嫌で次の飴を取り出した。
 ……まて、もう一つ持ってるじゃないかお前。

「うん? なんだ? 続きをご所望かい?」

 恨めしい気持ちでキャスターを見つめていると、にやにやと笑いながらそんなことを言われる。私は首を横にぶんぶんと振りながらエミヤの背に隠れて小さくなった。

 ……次からはキャスターをからかうのはよそう、そう決意した私であった。





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