姫のベーゼは誰のもの?



「十二体」
「十三、俺の勝ちだな」

 ……そのやりとりの馬鹿馬鹿しさに、私は大きくため息を吐く。

「あ? 嘘つけワイバーン相手だろうが、キャスタークラスのお前にはキツかったはずだろ」
「は、んな嘘なんざ吐くかよ、これが実力ってことだろ諦めろ」

 珍しくそんな言い合いをしているのはランサークラスのクー・フーリンと、キャスタークラスのクー・フーリンだ。同じ顔を突き合わせながら、同じ声で何やらお互いを牽制しあっているようで。

「今回は俺が嬢ちゃんを独占だな」
「おい待て、どっちが先に相手するかって話じゃねぇのかよ!」
「……はぁ」

 ──勝手に人の占有権を賭けて勝負などしないで欲しいというのが、景品¢、の素直な気持ちではありますが。

 遡ること二時間前、レイシフト先の野っ原で、

「よし、んじゃまぁ──今からより多くの敵をのした方が、こいつを褒美に貰えるってことで」

 などと、言い出したのは確かキャスターの方で。

「乗ったぁ!」

 ……などと、いい笑顔で快諾したのはランサーの方で。

「ちょっとまって、私の意見は?」

 …………などという、私の声は彼らに届かず。一瞬の間に駆け出した彼らの背中に手を伸ばしながら、私は長く長く息を吐いていた。

 そして現在。

「褒美に貰ったってことは俺のもんってことだろ、例え同じ俺でもくれてやらん」
「勝負の話の前に、分け合うって話してたじゃねぇか」
「そうだったかぁ?」
「ちょっ……ちょっと、離れて……」

 右からキャスター、左からランサーが身体を寄せてくる。腰を抱かれ、肩を抱かれ、歩きにくいことこの上ない。

「やぶさかじゃねぇって顔してるくせに」
「うるさい」

 図星だったのでそれ以上は何も言えず。
 美男二人(同じ顔ではあるが)に取り合われるシチュエーションというのは、やはり万国共通乙女の夢ではありまして。なんやかんやで悪い気ばかりではないというのが実の所。

 しかし、勝手に競って勝手に獲得され、モノのように扱われるのは腹が立つ。だから素直に手篭めにはなってやらないぞと私は彼らの肩を強く押し返した。

「────二十三」
「……えっ」
「うおっ」

 いい加減にして……と私が口にするより先に、背後から低い声がそう囁く。驚いて振り返ろうとする私を抱き込むようにして二人から引き離したのは、バーサーカーの……クー・フーリン[オルタ]、だった。

「お、オルタ……! どうして」
「二十三、俺が一番多い」
「何が……、あ」

 彼が繰り返し呟いた数字が何か、一瞬戸惑いはしたが、恐らく彼の「討伐数」なのだろう。二十三……なるほど、二人よりも十は多い。

「だったら、褒美とやらは俺のモノで問題ないな」
「はぁ!? オルタお前は勝負に混ざってねぇだろ」
「ふん、だがお前らよりこいつの役に立っていたのは事実だ。……勝負とやらにかまけて自分の役割を見失ってたんじゃねぇか」
「ンン、てめぇ……俺のくせに言いやがるじゃねぇか……」

 最多数討伐者オルタの登場で、二人はどうやら二の句を失っている様子。ふふ、少しだけいいきみだ。

「わ」
「わかったなら失せろ……今日はそういうルールの勝負なんだろ?」

 言い返せない二人を横目に、オルタが私を担ぎ上げる。そして、「ま、そう言われちゃ引くしかねぇよな」「くそー、次は負けねぇからな」なんて言いながら大人しく廊下の向こうへ消えていく二人の背中を、私は彼の腕の中から見送った。

「はー……助かった」

 私を抱き上げる彼の胸に、もたれかかるように身を任せる。彼は何も言わず、黙ったまま何処かへと足を向けた。

「お前の部屋でいいな」
「? うん、いいよ〜」

 運んでくれるならありがたい、私は何を疑問に思うこともなく安堵のため息を吐く。

「おい」

 そうしてしばらく歩いてから、彼が何故か少し上機嫌な声で私に呼びかけた。

「──褒賞は、お前の一晩で間違いないな?」
「……? 私の一晩……一晩!?」

 驚きに顔を上げると、そういう話だっただろう? と珍しく口角を上げた彼と目があって──どうやらこれは助かったのではなく、事態が悪化しただけのようだということに、私はようやく気が付いた。




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