Don’t cry



 女がそこで泣いていた。

「……おい、何故そんな顔をする」

 カルデアでの再召喚、すぐに視界に入ったのは泣き腫らした瞳で俺を見上げる俺のマスターの姿だった。
 記憶は断片的ではあるが、ここに至るまでの経緯は想像がつく。レイシフト先で俺は恐らく敵にでもやられ消滅したのだろう。
 それ自体は面白くはないが、目の前で泣いているこの女に傷一つないのであればそれで問題はない。俺達は所詮兵器、一つ潰れようが二つ潰れようが、マスターさえ無事ならそれで良い。
 だというのに、

「……オ、オルタ……」

 鼻をすする音が聞こえ、思わず舌を打つ。面倒だ、こんな時どうすれば良いかなんて、俺にはわからない。

「……っ、なん、で、あんなこと、するの……」

 あんなこと、と言われても心当たりなどすぐには出ない。つぎはぎだらけの記憶を手繰り寄せるように思い返して、ようやく、レイシフト先で俺が最後に見たこいつの表情を思い出した。
 倒れる俺に縋り付いて、「死なないで」と泣きじゃくるその顔を。

「……俺はサーヴァントだ、お前マスターを守ることに何の問題がある」
「それで貴方に死なれても、嬉しくなんてない……」

 涙を拭うために目元を擦るマスターを見て、「そんな風にしたら余計目が赤くなるぞ」と笑いながら彼女の頭を撫でるあいつの姿を思い出し、何故か余計に、苛立った。

「……俺達は戦いの道具だ、それが一度壊れたくらいで泣くんじゃねぇ」
「壊れた、って」
「使い潰したなら次のを使えば良い、他の奴らが嫌なら、こうやって再召喚でもなんでもすれば良いだろう」

 思うままを、自分の言葉を口にする。するとこいつは余計に傷ついたような顔をして「そうじゃない」とまたしゃくり上げた。

「そうじゃないんだよ、オルタ、私はもう、大事な人を失いたくないの」

 いまだ泣き止まないマスターの頬を撫でようと片手を上げ──そのまま、下す。馬鹿馬鹿しい、俺は今、何をしようとしていたんだ。
 触れたいと思った理由も、傷つけたくないとその手を下ろした理由すらもわからないまま、俺は眼前の彼女に言葉を続けた。

「俺はお前の槍だ、それだけだ」
「そう、だけど、それだけじゃないんだよ、オルタ……」

 私は貴方が大切なんだよ、と泣き続ける彼女を、俺は何も言わずにただ見つめ続ける。
 こんな時どうしたら良いのか、あいつなら──正しい霊基で召喚された俺自身ならわかるのだろうかと思うと、
 
 ……それが無性に、腹立たしかった。
 




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