gift



‪ 花なんか別に好きじゃなかった。だから、本当は花束なんて欲しくはなかった。
 だけど、彼が私のためにそれを用意したと言う事実が嬉しかったから、私は「ありがとう」と心からの礼を口にしてそれを受け取った。
 それから、なにかがあると彼は私に花を摘んでは持ってくる。レイシフト先で見つけた綺麗な花だとか、珍しい花だとか、そういったものを手折っては私へ届けてくれるようになった。
 そうやって、マイルームが彼からの贈り物でいっぱいになった頃、珍しく何も持たない彼が私の部屋を訪れて、「お前、花は嫌いなのか」と私に尋ねてきた。

「え? うーん、嫌いってことは……なんで、今更そんな……」
「……ランサーの俺が、そう言っていた」

 ああ、と得心がいく。そういえば昔、彼に「花の香りは好きでなない」と伝えたことがあったかもしれない。

「好ましく思わないのならば、受け取らなければ良いだろう」
「そうかもしれないけど……でも、オルタから貰ったものだったから」

 大切なのは、何を貰ったか、ではなく、誰から貰ったか。別に、好きではないが嫌いでもないのなら、好きな人から貰ったものを大切にしたいと思うのは至極当たり前のことじゃないか。

「……ふん」

 そう言った彼が、何か小さな箱を投げてよこす。これは? と聞くと、彼は「それは、嫌いじゃねぇだろう」とだけ言って踵を返して部屋を出て行ってしまった。一体何を渡されたのか、期待半分……失礼ながら、恐ろしさ半分といった気持ちでその箱を開ける。

「……! これは」

 中身を見て、まず驚く。そして次に、思わず吹き出した。
 なるほどなるほど、彼もオルタとはいえ「クー・フーリン」という英霊らしい。なんとまぁ、キザなことをするものだ。
 私はその箱の中身を取り出して、両手でぎゅっと握りしめた。
 


 翌る日のレイシフト先で、私の手を見たオルタが、心なしか満足そうに「気に入ったのか」と私に声をかけた。

「それは、もちろん。なにより、貴方から貰ったものだからね」

 ふふ、と笑うと、彼は「そうか」とそっぽを向く。それすらも愛おしくて、私はもう一度彼に「ありがとう」と微笑んだ。
 私の左手にはめられた銀色の指輪が、朝日を反射して眩しかった‬。




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