ぎっしりのプレゼントボックス



 手渡された大きな箱、中には──色とりどりの、装飾品。

「なんだこれ」
「クリスマスツリーの飾りみたいだねぇ」

 今年のサンタとやらに渡されたクリスマスプレゼントの中身に首を傾げていると、横からダ・ヴィンチの声が聞こえる。飾りみたいだねぇ、と言われても、そんなことは俺だって見りゃわかるわけで。

「……なんで俺へのプレゼントがこれなんだ?」
「うーん、それは流石の私にもわからないかなー?」

 だろうな、と、俺はもう一度箱の中を覗き込む。モール、ライト、オーナメント──やけに可愛らしいマスコット。
 そういえば、あいつはこういうのが好きだったか、などと考えていると、何を察知したのかダ・ヴィンチが隣でにやりと口の端を持ち上げた。

「ははーん……そうだ、クー・フーリンくん。北米の森の中に大きめの針葉樹があるんだけど……それを飾るのにちょうど良いくらいの」
「はぁ?」

 なんだそれは、俺にその飾りつけをしてこいとでもいうのか? なんのために?

「ツリーなら食堂近くにも一本飾ってあったろ、それにレイシフト先で見てぇってんなら、何も森の中じゃなくてももっと安全で楽に行けるとこあるだろーが」
「えぇー、それじゃあみんなが来れちゃうじゃないか」
「それの何が──」

 言いかけてハッとした。ダ・ヴィンチのやけに楽しそうなこの顔、人避けをしたがる理由──つまりなんだ、俺とあいつを二人きりにしてやろう、という事か。

(……だったら、あいつの部屋の壁をもっと頑丈にしてもらった方がありがてぇが)

 夜中、突然来訪するバーサーカーの俺や、何故か騒ぎを起こして壁をぶち破るその他のサーヴァントなどの脅威さえなければ、あいつの自室の中ではそれなりに二人きりで居られるわけだし。
 あと、部屋の通信機器もこちらが応答するまで通話ができないようにするとか。それを気にしたあいつが、俺以外誰も聞いてないってのに妙に周りを気にして声を抑えるのが少し惜しい。……それはそれでいじらしくて可愛いと思わなくもないが。

「んー、君が乗り気じゃないなら仕方ないけど……せっかく貰ったのに使わないのも勿体なくないかい?」
「いや、つーかそもそも俺へのプレゼントがこれっていうのが納得いかねぇな、俺は別にイルミネーション? とかいうものに興味もねぇし」

 別に、プレゼントを楽しみにする子供でもないが、だからといって他の奴のためのプレゼントを渡されるのもそれはそれで癪に触る。しかし勿体ないというダ・ヴィンチの言葉にも一理あって──

 ──そんなわけで、俺は一人、冬の森で針葉樹の飾り付けをする羽目になったわけで。

「……意外とめんどくせぇな……」

 難しい作業ではない、が、サイズがサイズだ、短時間でちゃちゃっと……というわけにはいかなかった。

「もう適当でも良くねぇか」

 まだ半分以上残っている飾りを見下ろし呟く。こう、投げて引っ掛かれば僥倖……くらいでいいのでは? という気持ちにもなってきた。
 どうせ適当にやったとしても、あいつに「うわー、ランサーってば飾りつけもまともに出来ないんだ」と言われるくらいで、他に問題もないだろうし。

「うっし、そうと決まれば……」

 手に持った靴下型のプレゼントボックスを振りかぶって──投げる直前で、俺はその手を下ろした。

「……いや………………やめとくか」

 あいつの不服そうに唇を突き出す顔と、嬉しそうな顔を思い浮かべて、どうせなら、まぁ、喜んで欲しいよな、と俺は息を吐いた。
 あいつの事だ、丁寧に飾ったところで重箱の隅でもつつくように文句は言うのかもしれない。それでも最後は嬉しそうにはにかんで笑うのだろう。……それを思えば、多少の面倒さなど苦にはならないような気がした。




「──わぁ」

 置いてきたメモ書きの時間ぴったりに、あいつは俺のいる丘の上まで登ってきた。寒さに頬も耳も真っ赤にして、息も白くして……それでも、嬉しそうに顔を綻ばせながら。

「おう、きたか!」
「もしかして、これ、ランサーが?」
「まぁな」

 あいつ──俺のマスターは、まるで宝物を見つけた子供のように瞳を輝かせながら、装飾されたツリーを見上げる。
 弧を描く目元、漏れる感嘆のため息、小さく「きれい……」と呟いた声。そのどれもが彼女が喜んでいることの証明に他ならず、それに気分を良くした俺は、その横顔をじっと見つめ続けていた。

「……なんだよぉ」

 それに気づいたらしい彼女は、俺と目を合わせてから照れたようにさらに頬を赤くする。少し不満げに下がる眉も、なんだか今日は一層、愛おしく見えた。

「良いもんだなと思ってよ」
「?」

 ──こういう時間も。……とは言わず、それだけを彼女に伝えて俺は再び空を見上げる。マスターは小首を傾げながらも、「そうだねぇ」と言いながらまたツリーへ視線を戻した。
 おおきいねぇ、すごいねぇ、と繰り返す彼女に相槌を打ち、さて、この後はどうしようか、などと考える。ぶっちゃけ俺としては、さっさと部屋に帰ってこの女を抱き潰してしまいたいのだが。
 しかし、どうせなら今日は、最後までこいつのして欲しいようにしてやりたいとも思ってもいるわけで。

「……でもちょっと寒いね」

 そんな時に、彼女がそんなことを言って、はぁ、と息を吐く。見れば彼女の指先は寒さでかじかみ赤くなっているようだった。

「……ほら、手、貸せよ」

 ちら、ちら、と俺を見るこいつの意図に気づかない俺でもなく、俺は望み通り手を彼女へと差し出した。

「! うん……えへへ」

 きゅ、と、やけに素直な彼女の手が俺の指を握る。……もしこれが、他の第三者の前なら、きっとこうはいかないのだろう。恥ずかしがって「いらない」というこいつに、「強がんなよ」と俺が言い返して、ムキになったこいつがさらに言い返して──いつものパターンだ。きっと、そうなっていたんだと思う。

「ねぇ、ランサー」

 上擦る声で、マスターが俺を呼ぶ。なんだよ、と返事をして握った手に力を込めると、彼女もまた俺の手を強く握り返しながら、俺の瞳を覗き込む。その頬はが赤いのは、きっと寒さのせいだけではないのだろう。

「………………ありがとう」
「! ……おう」

 その素直な言葉に、思わずドキリとしてしまった事はバレないよう、いつも通り返事を返す。……いつもが素直じゃない分、こういう時ずるいんだよなぁ、こいつ。

(あー……そうか、なるほど──これは、そういうことか)

 ここに至ってようやく、あのプレゼントボックスの中身の理由に思い至る。

(惚れた女の喜ぶ顔がプレゼントってか? ──サンタってのは随分とロマンチストじゃねーか)

 俺のガラじゃねぇんだがな、と、背中のむず痒さを感じながら、俺は長く長く息を吐いた。

(まぁ、たまには、こういうのも、悪くねぇなぁ──)















「……って、いい感じの雰囲気だったのにぃ!!」
「それはそれ、これはこれだろ」
「やだー! ロマンチックなクリスマスで終わりたいのにー!」
「おら、観念して抱かれてろ……別に嫌なわけでもねぇんだろうが」
「うー……!」




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