優柔不断な背中に 食堂で、頭を抱える男が一人。彼の右前方にあるのは魚がメインの和食A定食、そして左前方にはエビの天ぷらが乗ったそばセット。──さてどちらを食べるか、それが彼の今の問題らしい。
「山南先生、お昼ご飯ですか?」
「っと、マスター……すいません、後がつかえていますね……すぐに決めますから」
そう言いながらも彼の指は左右へぶれる。困り眉で「そうですね……ではこちらを」と言いながら和食A定食を控えめに指さした。
「……じゃあ、私はこっちのお蕎麦! 天ぷら多めと小さい器も一緒に頂戴!」
「承知した」
何かを察したであろうアーチャー・エミヤが、ニヒルな笑いを浮かべながら注文通りの食事を提供してくれる。味はもちろんのこと、この提供スピードの速さこそ彼が「キッチンの守護者」という二つ名を与えられている理由なのである。しらんけど。
「山南先生、ご一緒してもいいですか?」
「あ、ああ、私は構わないが……」
戸惑う彼の裾をひき、キッチンの片隅のテーブルへ着席する。目の前には彼の選んだ和食A定食と、私の頼んだ天ぷらそば。私はアーチャーが用意してくれた器にそばと天ぷらを半分ほどよそってから、「山南先生さえ良ければ、どうぞ」と言ってそれを差し出した。
「えっ!? いや、それでは君の食べる分が」
「はい、だから山南先生のご飯も半分ください! ……本当に、山南先生が良ければですけど」
ちょっとはしたなかったかな、と思いながら彼の返事を待つ。彼は数度瞬きをした後、「ありがとうございます」と困ったように笑った。
「けれど、それはやめておこう、君は君の分をきちんと食べるといい」
「あ……はい……」
気持ちは嬉しいけど、と私が差し出した器が私の手元に戻される。から回ってしまった気恥ずかしさで少ししょぼくれる私に、彼はまた笑いかけた。
「その代わりというわけではないけど、次は私もそっちを頼むことにするから──その時は、またこうして一緒に食べてくれるかい?」
「……! は、はい!」
よかった、と私の頭を彼が撫で、それがなんとも照れ臭かった私は「は、早く食べないと伸びちゃいますね!」と言って両手を合わせる。
「それじゃ──いただきます!」
「いただきます」
彼と向かい合わせの食事は、なんだかいつもよりも美味しいような気がした。
clap!
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