「もう、きいてよ!」 それは私が彼に話を聞いてもらう時の常套句。
「ランサーってば酷いんだよ! デリカシーがないっていうかさぁ……!」
――厳密に言えば。
目の前で頬杖をつきながら適当な相槌を打っている彼もランサークラス≠ナはあり、なおかつ、私がランサーと呼んでいる彼と同じクーフーリン≠ナはあるのだが……もちろん今文句を言って頬を張り飛ばしてしまいたい男は目の前の
年若い彼ではなく。当然、彼より少し大人のはずの、全身真っ青な男のことである。
「んで? 今度はあの俺がどうしたって?」
彼もそれはわかっており、半ば呆れながら話の続きを促してくれる。それに応えるように、私は本当に何気ない愚痴を彼にこぼし始めた。
「あいつ! 周りに他の人もいるっていうのに、キ、キス……してきて! 本当、あり得ない! しかもそういう時って、キャスターもオルタもぜーったい止めてくれないし!」
多少知的になったとて、多少反転したとて、結局根っこはクーフーリン。口にしないという賢さや興味の薄さはあれど、「今の何が問題なのか」という顔はみんな同じであった。
「そいつは災難だったな」
「ね! 恥ずかしいったらないの! ……あぁ、もう、やっぱりプロトはわかってくれるなぁ……」
同じなはずなのに、大違いだ。そう最後に付け足して、私はテーブルに突っ伏した。あの赤いキッチンの守護者などが居れば、「
共用の場でだらしがないぞ」なんて怒られてしまいそうなものではあるが、幸運なことに今は私と彼の二人きりである。
「大違い、ねぇ……」
不満そうに彼が漏らす。私としては、プロトを褒めるつもりで口にしたのだが、もしや彼にとってはあまり嬉しくない言葉だったのだろうか。
「えっと……不快だったらごめんね」
「いいや、別に……つーか、なにが?」
アンタは気にし過ぎなんだよな、なんて笑われて、私は「そうかな」と唇を突き出した。……ランサーにも、同じようなことを言われた気がするけど、プロトにまで言われると、そうなのかもという気がしてくるというものだ。
「……俺もクーフーリン≠ネんだがなぁ」
「……? うん、わかってるよ?」
「わかってねぇよ」
なにを、と返すよりも早く、彼の手が私の頬を撫でる。その手つきにとても
覚えがあった私は、思わず言葉を無くして息を呑んだ。
「あ、の、」
「――黙ってろ」
がたん、と音がして、彼が立ち上がる。そして赤の瞳がだんだん私に近づいて――
「――ん、っ、……」
彼の唇が、私の唇に重なった。
「これでわかったろ――俺も、ずっとアンタにこうしたいと思ってたんだぜ」
そう言って笑う彼の顔は、他の彼らと同じようで少しだけ違っていて――それでも、その行為に込められた想いだけは、どうやら、似たようなもののようで。
「……っ! だ、だからってこんなところで、こんなことする!?」
「あ? だって
あいつは人前でしたから怒られてんだろ? いいじゃねぇか今ここにいるのは俺とアンタだけなんだからよ」
「そっ、そうだけど……! そういう問題じゃないの! ばか!」
「いでっ」
グーで胸元を一発、強めに小突く。彼にとっては大したダメージでもないくせに、わざとらしく痛がるふりなんてした後に「次からは気をつけるわ」なんて悪戯っぽく笑っていた。
……次があると自惚れているあたり、たしかに
彼らしい自信家だ。その彼等らしさを憎み切れないのは――やっぱり、なんだかんだで私は彼等のことが好きで仕方ないんだということだと思う。
clap!
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