二度目のキスはタバコの味がした



 ファーストキスは檸檬の味だというのが、どうやら世間の通説らしい。……残念ながら、私のそれはそんな甘酸っぱい味ではなかったけれど。

「残念だったな」
「……うるさい」

 喉の奥で笑うキャスターの声に、その時の鉄の味を思い出した私は思わず顔を顰める。別にそんな事を気にする乙女のように振る舞うつもりは毛頭ないが、それはそれとして、まぁやはりちょっとだけ憧れのようなものはあったわけで。

(……いや、でも、あれは――あのキスは、魔力供給、だったから)

 それはつい先ほど、レイシフト先でのことだった。連れ立っていたサーヴァントの一人が、あろうことか魔力不足に陥ったのだ。だから、それで、仕方なく。

 緊急事態だったからノーカンで。……なんてことを思ってはいるが、口にすれば目の前の男に揶揄われるのは明白だ。私は出来るだけ感情を表を出さないようにして「あの状況なら仕方なかった」と言葉を返す。

「まぁ、マスターとしちゃ正しい判断だ、よくやったな」

 彼が、優しげな手つきで私の頭を撫でた。

「……子供扱いしてる?」
「あー……してねぇしてねぇ」
「嘘っぽい」

 むぅ、と私が唇を尖らせると、彼は少し困ったように頭をかいた後、何か悪いことでも思いついたかのようににやりと口の端を持ち上げる。なんだか少し、嫌な感じだ。

「っし、ならあれだ――俺がちゃんとしたキスってやつを教えてやろうか」
「は?」

 セクハラ親父よろしく、ニヤついた顔で私の腰を抱き寄せるキャスター。やめて、と拒絶の言葉を口にして彼を押し返してみるも、腕力で私が敵うはずもない。くそう。

「ふざけてるならやめて、ちょっとムカつく」
「そういうなよ……俺は割と本気だぜ」

 そんなこと言って――と、見上げた彼の瞳に戸惑う。先ほどまでとは打って変わって、彼はやけに熱のこもった視線を私に向けていたものだから。

「な、なん、なっ……」
「……嫌か? なぁ――、」

 彼が私の耳元で、私の名前を囁いた。悔しいことに、たったそれだけで私の心臓は馬鹿みたいに跳ねるのだ。

「で、――どうする?」
「……ためしてみる、だけだから」

 最後の強がりを口にして目を閉じると、彼の「了解」という浮かれた声と共に、唇に柔らかいものが触れる。

 ……それを不快に思えなかった時点で、多分もう、なにもかも彼の思惑通りになってしまっているのだろう。




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