エウリュアレ
「ねぇ貴女、ステンノと、メドゥーサと……あと、アステリオス、何処にいるか知らないかしら?」

 そう私に声をかけたのはエウリュアレだった。私が知る限りでは、ステンノは自室、メドゥーサは書庫、アステリオスは食堂で見かけた旨を伝えると、彼女は「そう、ありがと」と言って食堂の方へ歩き始めた。

 それで用は終わりか、と私もマイルームの方へ足を向けると、「ちょっと」と少し不機嫌そうな彼女の声がする。

「貴女も来るのよ」
「え? なんで……」
「いいから来なさい、私、歩くの疲れちゃったのよ」

 それはつまり、私に貴女を抱えて歩けということなのだろうか。たしかに女神エウリュアレは他のサーヴァントと比べて小さいし、無理なことではないのかも知れない、が、私も一応か弱い少女だ、出来れば遠慮させて欲しい。

「マスター?」
「……いや、無理、私そんなに力持ちじゃないし」

 キラキラとした瞳で見つめる彼女に、危うく「うん」と頷きそうになってしまうのを必死に堪えて目をそらす。危ない危ない、彼女の魅了は男性限定だったはずだが。

「なによ、ケチねマスター」
「ケチとかじゃなくて物理的に無理があります……」

 苦笑いの私に「まぁいいわ、早く来なさい」と言って彼女はちょこちょこと歩いていく。どちらにせよ付いていくのは確定らしい。

「まずはアステリオスね、それからステンノも連れてメドゥーサのところにでも遊びに行ってあげましょう」

 楽しそうな彼女の背を追いながら、ここに来たばかりの彼女の言葉を思い出す。

「ねぇ、エウリュアレ」
「なぁに、マスター」
「もう寂しくはない?」

 足を止めた彼女が少し考えるように黙ってから、「そうね、ここにはアステリオスもステンノも駄妹もいるし」と言って振り返った。

「――なにより、貴女がいるものね」

 その彼女の笑顔は、たしかに異性を魅了する女神の微笑みであったのだが――同時に、喜びに満ちたただの少女のようでもあって、

 私は、それがなんだかとてつもなく、嬉しかった。