土方歳三
「六十点だな」
「あの、どこみて言ってるんですか」

 どこってそりゃ……と続けようとした土方さんを「いえ、本当にわからないわけではないです」と静止する。真面目な話をしていたつもりなのにどうして私のスタイルに点数をつけているのか。……あと、何気にリアルな数字なのもちょっと辛い。

「……私、土方さんのこと好きだって言ったつもりだったんですけど」

 彼が私に点数をつける少し前に、私は彼に好意を伝えた。受け入れてもらえずとも、断られるとしても、伝えられればそれで良かった。そんな自己満足の告白だった。
 しかし、返ってきたのは先ほどの「六十点」、コレは割と断られるよりもキツい。

「私の話ちゃんときいてくれてました?」
「つまり俺に抱かれたいって話じゃねぇのか」
「抱っ……!? ど、どうしてそう短絡的なんですか!」

 バーサーカーだからなんですか!? そう言いかけたが多分これは狂化の影響ではなく、彼自身の性格の問題だろう。そう思ったのでその言葉はぐっと飲み込んでおいた。

「ちげぇのか」
「ちっ……がくは、ないかもしれないですけど」

 けれど、好きって、それだけじゃないはずなんだ。
 ……そんな風に考えてしまうのは、私が彼よりもずっと子供だからなのだろうか。

「私は……土方さんに好きになって欲しいだけなんです」

 ……伝えるだけで満足するつもりだったのに、伝えることが出来たあとは、ついに彼からの気持ちも欲しくなってしまった。少しの後悔を胸に、そう言って少しだけ彼に近づくと、今度は彼の方からも私へ一歩近づいて──そして、私の額へと口付けた。

「なっ」

 また、「そうじゃねぇのか」とでも言いたげな顔で彼が私から離れる。そうじゃない、そんな即物的なものを求めてるわけじゃないのに。
 ……そう思っているのに、やはり心の内では喜んでしまうのは、なんとも情け無いことこの上ない。

「その気もないのに、酷い人」
「だったらそんな男、好きにならなきゃあいい」
「……それができたら、苦労してないんですよ」

 彼の黒い羽織を軽く引いて、もう一度「好きです」と呟いた。彼は少し微笑んで、「そうか」と一言だけ返してからそれきり黙ってしまう。

(……酷い人、)

 伝えるだけじゃ満足できなくなってしまったのに、そうやって、今度は何も返してくれなくなるんだから。……それでも、ただ私の気持ちを受け止めてくれたことは、頬が緩むくらいには嬉しかった。

 ──諦めない人が好きだっていうなら、私は諦めないよ、きっと、土方さんが、私を好きになってくれるまで。