タマモキャット
 もふもふ肉球、これぞ究極のアニマルセラピー。

「はぁ〜〜……癒されるぅ〜〜……」

 私はタマモキャットの両手を掴み、自分の両頬を挟むように彼女の肉球を押し当てる。大きな肉球とふわふわの毛並みは、私の日々の疲れを癒すには充分の効果があった。

「ご主人、これで良いのカ?」
「うんうん、最高だよタマモキャット、こんなに癒されることなかなかないからね……」

 カルデア内では数少ない獣成分、特に猫派の私には限られた癒し担当、それが彼女である。ぷにぷにに挟まれながら感嘆のため息を吐く私に、キャットは「ご主人、ご主人」と語りかける。

「キャットはナ、なんとアニマルな上にご主人のために料理をすることもできるスーパーキャットなのダ。つまるところ、その手を離してもらえればご主人の好きなメニューを作ることが可能だゾ?」
「えっほんと!?」

 パッと彼女の手を離す。キャットは自由になった手で(どこからか)取り出した包丁とおたまを握りしめながら「さてさて、何が食べたいのカ?」と目を細める。

「そうだなー、じゃあやっばり、オムライス、かな」
「了解だワン!」

 そう言ってキッチンへ駆け出したキャットが、数メートル先でピタリと止まる。どうしたんだろうかと思っていると、今度はちょっと控えめにこちらへ戻ってきた。

「あのだな、ご主人、今からキャットは心を込めてご主人にオムライスを作ろうと思うのダ」
「? うん、ありがとう……?」

 首を傾げながら、いつもより瞬きの多いキャットの瞳を覗き込むと、キャットは少し頬を赤らめながら、「だからな、ご主人」と言葉を続ける。

「キャットのご飯が美味しかったならば、頭を撫でるなどしていただきたク……アニマルもセラピーされる時代なのでナ!!」

 びっ! と彼女の耳と尻尾が伸びた。アニマルによるセラピー、ではなく、アニマルをセラピー、ときたか。なるほど。
 だが確かに、彼女の日々の献身には然るべきご褒美があるべきだ。望まれたのがこの程度であるのは、いささか褒美が足りていないのでは? とさえ思える。

「そっか、そうだね……キャット、いつもありがとうね」
「ほ!」

 彼女の頭を撫でるように手を乗せると、伸びた耳がピクリと動く。毛並みの良い尻尾も大きくブンブンと揺れ、喜んでくれているのだろうことがわかり何故だか私も嬉しくなった。

「ご主人、ご主人、キャットはまだ料理を終えていないのだガ!」
「んー。じゃあこれは前払いってことで」
「マエバライ?」
「うん、でもこれじゃ撫でたりないから、食べた後に残りの分を後払いさせてね」
「ふむ、中払いもあるのカ?」
「ふふ、キャットがして欲しいなら、あるよ」
「なんト!」

 喜ぶキャットの満面の笑顔を見て、釣られて私も笑みが溢れる。あぁ、やっぱりオムライスは、二人で作ることにしよう。そう決めた私は、キャットの隣でフライパンを手にとった。