レオナルド・ダ・ヴィンチ
 恋に落ちるとはまさにこのことだったのだ。

「――どうかしたかい?」
「え、あ、いや……」

 微笑む顔は美しく――いや、身体も、声も、手も、瞳も、全てが美しく。そして優雅で――魅力的だ。
 そのようなヒトだった、そのように出来ているヒトだった。彼――レオナルド・ダ・ヴィンチという英霊は。

 ――黄金律。女神の如く完璧な肉体を有し、美しさを保つスキル。それを、彼は自身の作品であるモナ・リザの姿として自分を再設計するために使用しているのだと、いつか聞いたことがあったような気がする。
 とにもかくにも、あぁ、彼は、本当に――美しかった、のだ。

 ――いつか、私のものにしてしまえたらと、思ってしまうくらいには。

 おこがましいことだ、わかっている。それでも願わずにはいられない。……美術品を求める人間の気持ちとは、こういうものなのだろうか。

「芸術家としては、自分の作品をそんなに気に入ってもらえるなんて光栄だ。けれど残念、ダヴィンチちゃんはみんなのものさ」

 わかっています――とは、口にできなかった。
 美しい人、時に師のように私を導いて、時に友のように寄り添ってくれる人。彼の隣にいると、孤独にぽっかりと空いた心の隙間が、満たされていくのを感じるのだ。

「ねぇ、――、」

 歌うような軽やかさで、彼は私の名前を呼んだ。頬の熱を誤魔化すように、私は「なに?」と声を張る。

「――私は君の旅路の幸運を願っているよ。本当に、心から」

 彼の艶やかな髪が風に揺れた。晴れ渡る空のような彼の瞳を覗き込むと、ああ、なんだか、とても、幸福な気持ちになるのは――やはり、これが恋だからなのだろう。

「ありがとう」

 好きという言葉の代わりに、感謝を。そうして私は、今日も差し出される彼の手を取り未来へと歩くのだ。