貴方とシオンの花言葉


Chapter.4


 そんな毎日だった。
 そんな日常だった。
 そんな──幸福の日々だった。

「──クラウスさん……っ!」
 
 ──今日、この日までは。
 
「大した怪我ではない」

 ベッド傍で泣き伏している私の頭を、クラウスさんが優しく撫でた。それでも私は顔を上げることができなくて、返事の代わりとでもいうように鼻をすする。

「ごめんなさい……ごめんなさい……私のせいで……!」
「君のせいではないと……顔を上げてくれ」

 伏せたまま、私は何度も謝罪の言葉を口にした。きっといつもの彼なら、そんな私の頭を優しく撫でてくれただろう。だが、その手は、腕は、先の戦いで使い物にならなくなってしまっていた。

 ──私を、庇ったせいで。

 無論、このヘルサレムズ・ロットの優秀な医療技術を持ってすれば、数日……長くても数週間で、彼の腕も元ように治せるのだろう。それを踏まえた上で、大した怪我じゃないなんて言っているんだ彼は。……今回はそれで良いかもしれない、だけど、もし、また同じようなことがあったら?

 ──もし、次は、彼が命を落としてしまうようなことになったら?

 それが怖い、とすすり泣く私に、彼は「そんなことにはならないと約束しよう」と声をかける。
 彼の言葉はいつだって嘘も偽りもない。彼がそういうのなら、本当にそうであろうと努めてくれるのだろう。
 けど、私が、彼に守られる存在である限り、彼は私を守って傷を負う──それもまた、間違いなく事実なのだ。

 だから──だから──

 ──私はその薬に、手を伸ばした。


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