「mythology」

 夢の中で、今日の私はふわふわと浮かんでいた。

(なにこれ)

 初めてのことに少し戸惑い、とりあえずあたりを浮遊してみる。
 遠くで、どこかで見たことのある青年が槍を片手に戦場をかけているのが見えた。

「あれは……」

 クランの猛犬、クー・フーリン、と、自身のサーヴァントの名を口にする。
 恐らくこれは彼の記憶だろう、もっと遠くの方では古代ウルクの国が見えた。

「あっちは、ギルガメッシュ、かな」

 少なからず魔力のやりとりがあるせいだろう、正式な契約でなくても、サーヴァントの夢を見ることになるとは。

「あ」

 遠くで景色が移り変わる、あれはいつの記憶だろうか。



 幼いセタンタが、獰猛な番犬を殺していた。
 向こうでは小さくも賢い王が、国を治めていた。
 
 
若き青年が、国の為に多くのものを薙ぎ払っていた。
成長した王が、暴虐の限りを尽くしていた。
 
 
 彼は影の国で子供を設けて、
 一方の彼は唯一無二の友をつくり、
 
 
 光の御子は自らその子供を手にかけ、
 古代の英雄王は、その友を手にかけた―― 


(これは、彼らの過去)

 もう決まってしまった過去、取り返せない時間、
 愛する者を幾人も手にかける気持ちというのは、一体どんなに辛いものなのだろうか。
 唯一の存在をなくした世界で生きるということは、一体どれほど苦しいものなのだろうか。

(私にはわからない)

 けれど、彼らは知っているのだろう。
 自分の気持ちを置きざりにしてまで国とゲッシュを守った男は、膝を折ることなく立ったまま息を引き取った。
 友の死に恐れを抱き不死を求めた男は、その草を蛇に奪われた。
 伝承で知っていた通りの筋書きをなぞるだけの昔話。
 知っている、でも、

(この感情は、知らない)

 これだけのことがあって、辛くないわけがないのに。
 何故、彼等は今あんなにも笑っているのか。

(一度死ねば吹っ切れるんだろうか)

 大事な人の死とか、そういうものを。

(……わからない)

 わかるわけない、だって私は、この時代でまだ十数年しか生きていないんだから。
 だから、

(この記憶は私には辛すぎる)

 自分のことではないとわかっていても二人の記憶が辛くて悲しくて、思わず涙が溢れた。
 この世界でたった一人、絶対に失いたくない人を亡くした時の気持ちは、いったいどれほどのものなのだろう。
 
 今までの夢の自分を思い出す。
 知っているような、知らないような、知りたくないような、
 

 そうして私は、また、今日も目を覚ますのだ――
○ ○ ○


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