「甘美な夢」

「学校の結界、発動したんだ」

 言峰から、学校での昏睡事件を聞いて納得する。なるほど、それの対応をしていたなら私につきっきりなど無理な話である。
 しかしまぁ、それだけの事件をちゃっちゃと誤魔化してしまうあたり手慣れているというか、胡散臭いというか。

「新都のガス漏れ事故といい、よくもまぁ隠蔽出来るもんだね」

 思ったよりみんなこういうものに興味がないんだろうか、しかしこんなに魔術による事件が多発しては、監督役も大変だろう。一応、まだ前回の聖杯戦争よりはまだ被害が少ないとは聞くが。
 あの時に参加していた魔術師は全て魔術師たる魔術師であった、だが今回はどうだ。

「魔術師モドキと一般人、正規のマスターじゃない人…マトモなのはアインツベルンと遠坂のところくらいかぁ」

 といっても、アインツベルンのマスターはまだ子供である。事後処理や隠蔽工作の事など考えているか危ういし、遠坂の家はなんたってうっかりさんだ。代々引き継がれるうっかりさん。なにをしでかすかわからない。

「これは胃が痛くなりそう」

 言峰の心労を思い頭を抱える。昏睡事件を誤魔化すのも相当大変だったろう。

「お疲れ様です、神父様」

 夕飯のメニューは決めさせてあげよう、と、今回の事件の資料から視線を上げると、

「……」

 無言の彼と目があう。

「神父様?」
「ランサー」

 私が彼を呼ぶのと、彼がランサーを呼ぶのはほぼ同時だった、ように思う。

「席を外せ」

 へいへい、と言い残して彼が姿を消し、微かに感じる彼の魔力がこの部屋から立ち去った。消えるだけではなく、本当に何処かへ行ったらしい、律儀なことだ。
 いや、もしかしたら綺礼の側にはいたくなかっただけかもしれないが。

「涼」

 彼の声が私の名を呼ぶ。そのいつもよりも熱っぽい声色に、思わず一瞬息が止まった。

「腹はすいたか」

 ギシ、と、私の腰掛けた寝台がきしむ音がする。
 彼ほどの巨体が体重をかけたのだ、仕方のないことだろう。

「……腹が、すいたろう?」

 座ったままの私に覆いかぶさるように迫り、押し倒す。
 耳元で囁かれる心地よい音に、思わず息を飲んだ。

「そう、だなぁ、」

 カラカラに渇いた自分自身に意識を向ける。
 数日なにもせず眠っていただけのはずなのに、どうしてこんなに魔力が枯渇しているのか。

「お腹、すいたね」

 のども、渇いたなぁ、と、彼の唇を奪う。
 そこから流れてくる甘美な彼の魔力に、頬が紅潮していく。

「っふ、ん、は……」

 もっと、もっと、求める私に呼応するように、彼もまた深く私の魔力を求める。

「っ、は、」

 彼がその行為の合間に息を漏らすことの、なんと可愛いことだろう、彼の背へ手を伸ばし彼を強く抱きしめた。

「あ、っは、き、れ、」

 これは魔力供給だ。
 そう、生きるための行為、生存の為の本能、
 ……わかってはいても、

「涼……っ」

 愛する人に求められ、こんな声で名前を呼ばれて、冷静でいられる女がいるものか……!

(綺礼、)

 回した腕に力を入れる。

(っ綺礼……!)

 もつれあったわたしたちは、そのまま――
○ ○ ○


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