「その家来たちが町を囲んでいたとき、バビロンの王ネブカザルもまた町に攻めてきた。」

「―――っは……!」

 目が覚めて飛び起きる。慌てて辺りを見回すとそこにはいつもの私の部屋が広がっており、

「……は」

 もちろん、私以外はだれの姿もなかった。

「…………夢か」

 盛大なため息と共にまた倒れこむ。
 それもそうだ、あの言峰綺礼があんなに情熱的に私を求めたりするものか。

 ならば、いったいどこからが夢だったのか。

 魔力供給をした覚えはある。確か三日ぶりの食事を受け付けなかった私に、綺礼が魔力を送ってくれたはず。

(あんなに激しく求め合って…みたいなのではなかったけど)

 夢の内容を思い出してボッ、と顔に火が灯る。
 確か、本当は、そう、何時ものあの意地悪な顔、「これで足りるのか?」とイタズラに私をそそのかすあの笑顔、弧を描いたその唇がゆっくりと私の名前を呼んで私はそれに応えて彼の魔力を、

 ……血液から、摂取したのだった。

 がっくりと肩を落とす。わかってはいたがまだ夢を見ていたかったものだ。
 もしかしたら、彼が、からかうためではなくあんな風にキスをしてくれたのではないか、と、

「……そんなことあるわけないって」

 いいんだけどね、とまた息を吐く。
 普段であれば魔力の余っている私と、魔術行使のためにいくらかの魔力を必要としている綺礼、
 私と彼の間でパスを繋げてしまえば手間はかからないのだが、その案は何故か却下され、その都度補給する羽目になっている。

(今回は珍しく逆だったけど)

 そもそも、彼は何故か私とそういう″s為をしようとしないのだ。

(別にいいのに、綺礼なら)

 私自身は、すでにランサーやギルガメッシュとパスを繋ぐ際にそういう行為をしているわけだから、特に嫌悪も抵抗もないのだが。

(なんだか、子供扱いのままみたい)

 ちくりと胸が痛み、それを誤魔化すように枕へ顔を埋めた。

(……せめて、魔力供給くらいキスでしてくれてもいいのに)
 
夢の中で私を求めてくれたあの綺礼の顔を思い出し、少し恥ずかしくなる。

 でも、できることなら、現実でも、夢のように――

「……ん?」

 いやまて、まてまて、私は今二体のサーヴァントと絶賛契約中で、その期間に見る夢というのは厳密には夢ではなく、相手の記憶を、まてまて、あれはでも、いやそれより、なんていうか確か夢を共有することがあって、
 もしかして、あの夢を見たのは、私だけではなく、

「中々に面白いものを見るものだな? 小娘」

 突然の声に飛び上がる。ぎこちなく振り向けば、そこにいたのは比較的今は会いたくない方のサーヴァント、ギルガメッシュだった。

「……あ、う、まさか」
「そのまさかだ」

 にやにやと笑う顔が近づいてくる。くそ、くそ、よりによってこっちに見つかってしまうなんて。
 嫌味に笑う顔が憎い、本当に嫌いだ、こいつは。

「ふん、そのような顔を向けるでない、不敬であるぞ」

 こちらへカツカツと歩み寄る。ええい来るな来るな、こっちへ来ないでくれ。

「だがまぁ許そう、なんなら貴様のその望み、この我自ら彼奴に伝えてやっても良い」

 彼の指が私の顎を持ち上げた。冗談じゃない、本当に冗談じゃないぞこの男。
 こんな男が側にいたから、綺礼もあんなに捻くれて育ってしまったのではないのか。
 そう、たしか出会ったころの言峰綺礼はもっと寡黙で、真面目で、信心深くて強くてそれで、

「なにも変わってはおらんぞ? あの男は」

 私が綺礼のことを考えたことすらお見通しなのか、またくすくすと笑われる。本当にいけ好かない男だ。
 しかしなんというか、こんなにも気に入らないのにどことなく綺礼に似ている気がする。

「とにかく今はこちらよな、我は腹が空いているのだ」

 彼の顔が近くに迫った、それが魔力供給を促しているのだとわかり、嫌々ながらも目を閉じる。
 拒否すれば面倒なことになると経験が教えてくれているのだ、おとなしく彼にされるがままに――

「……まって」

 後少しというところで彼を止めた。
 嫌な予感がして、意識を教会に張り巡らせた結界へ集中させ、
 教会へ侵入する何者かの気配に気づく。

「サーヴァントの気配……まさか、私の事がばれた……?」

 しかしその気配は真っ直ぐに礼拝堂へと向かう、用があるのは、言峰綺礼、だろうか。

「っ……!」

 もしかして、そのサーヴァントの狙いは、

「ふん、面倒事か、興が冷めたな」

 そう言って王は私の前から姿を消す、あの気分屋は今回は頼りには出来そうにない。
 それと入れ替わるようにして、部屋の隅にもう一人のサーヴァントが姿を現した。

「ランサー」
「おう、……いくか?」

 既に彼は応戦する気なのだろう、得物の真っ赤な槍を手にしている。
 だが、私はそれを制した。

「ダメ、言われてるでしょ、無闇に表に出るなって……!」

 彼は少し意外そうに、しかし呆れた様子でため息を吐く。

「あのな、そんな事言ってあいつが死んだって知らねーぞ」

 俺はそれで構わねーんだがな、と、彼が目を細めた。

「そんな事は、させない」

 ならばどうするのか、考えがあるわけでは、ない。

(どうする、どうすれば)

 思考しようとして、大きな魔力がぶつかる気配を感じ取る。
 悩んでる暇などなさそうだ、とにかく今は、私一人でどうにかしなくては――
○ ○ ○


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