「ユダはイスラエルに敗られて、おのおのその天幕に逃げ帰った。」

 暗い地下道を、彼の巨体を担いで走る。

「っぐ、重……!」

 肩にのしかかる重量に弱音を吐くが、だからと言って見捨てるなんて選択肢はない、歯をくいしばりまた一歩、また一歩と前へ進んだ。
 そこへサーヴァントの、ランサーの気配が飛んでくる。

「待たせたな……おい、大丈夫かお前」

(助かった……)

 流石になんの魔術行使もしていない私ではこの男、言峰綺礼を運ぶのには限界があるというもの、返事もそこそこに彼を押し付け、「運んでくれ」と頼んだ。
 ランサーは少し嫌な顔をしながらも、おとなしく私に従ってくれる、義理堅い事だ。

「侵入者の正体はキャスターのようだぜ」

 言峰を軽々と荷物のように担ぎ、彼は報告してくる。
 ランサーには侵入者の、言峰綺礼を殺しかけた相手の正体を探らせていた。
 殺しかけた、というか、相手からするならば、殺したはず、というか、
 しかし彼はまだ辛うじて息をしている、それをこっそりと回収して今に至るわけで。
 恐らく相手の狙いは優秀な地脈の確保だろう……それならば柳洞寺から出てこなければい良いものを。
 それにしても、

「ねぇランサー、その持ち方はどうにかならないの」

 あまりにも乱雑に運ばれる彼を横目に苦言を呈する。
 これでは応急処置を施した傷も開いてしまうというものだ。

「うるせぇな、運んでやってるだけでも譲歩してるっつーの」

 彼の拗ねたような物言いにため息を吐く、仕方がない、確かこの辺りに一休みできる場所があったはずだ、そこでもう一度彼の傷を癒すことにしよう。
○ ○ ○


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