「再び起きあがって、外を歩くようになるならば、これを撃った者はゆるされるであろう。」

 彼の傷口に、持ち出してきた布を当て、強く圧迫し止血を試みる。
 その上で魔術式を唱えると、彼の口から嗚咽が漏れた。

「少しくらい痛くても我慢してよ、こんなの私の専門外なんだから……」

 治癒魔術はそれこそ綺礼が得意とするもので、私には向いていない系統の魔術だ、少なくとも凛の方が私よりも数段うまく治してみせるだろう。
 しかし今はそんなことを言っている場合では無い、出来る限りの手を尽くさなくては、

「ぐ、ぅ、」

 意識が無いわけではないのに、何故か傷の治りが遅い。

(魔力が、足りてないの?)

 魔力、つまり生きる力が足りないのならば、どれだけ治療を施しても無駄であろう。
 ならば、と、自分の指を咥え――思い切り噛みちぎった。

「っ、いた……」

 後ろでランサーが何事か喚いている、知らない、今はこちらが優先だ。
 血のにじむ指を彼の口元へ運び入れる。

「体液の、経口摂取なら、多少、違う、でしょ、」

 擦り付けるかのように指を動かせば、彼の舌がそれを受け反応し、次の瞬間、ずるりと自分の中から何かが抜けていく感覚がする。

「っう……!」

 傷口から、血液と共に魔力を吸われているのだ、何も感じない方がおかしいのだろう、が、しかし、

「がっつき過ぎじゃない……?」

 ちょっと、苦しいんだけど、と笑いながら苦言を呈する。
 今はそんなおちゃらけている場合ではないと理解している、
 理解はしている、のだが、

「ぁ」

 ……彼の温かい舌が私の指を、舐め、血を吸いあげ、かすれた声が、途切れ途切れに漏れる息が、なんともなしに扇情的、で、彼の唇から目が離せなくて、私の指が、その蠱惑的な赤い孔に、吸い込まれ、て、

「……っ‼」

 邪な考えを打ち消すかのように勢いよく指を引き抜く、多少は効果があったようだ、少し顔色が良くなっている。

「良かっ……」

 た、と安心して、くらりと眩暈を覚えた、貧血、だろうか。

「ったく、嫁入り前に傷物にするもんじゃねーよ」

 倒れ込みそうになったところをランサーに受け止められる、ありがとう、と礼を言い彼にもたれかかった。やれやれとわたしの肩を両手でしっかり支えてくれる彼は、なんだかんだで面倒見が良い。
 その体勢のまま耳を澄ませば、彼の規則的な寝息が聞こえてくる、恐らくこのまま少し寝ていれば、彼の魔力も回復するだろう、私は重くなった目蓋を、重力に任せてストンと閉じた。

「ごめん、ランサー、私も、このまま……」

 彼の返事を待てずに意識が遠のいていく、少し、少しだけだ、夢を見る前には目覚めなくては。
 なんだか、今は嫌な夢を見る、そんな予感がするから――
○ ○ ○


clap!


prev back  next




top