「自分の父または母をのろう者は、必ず殺されなければならない。」
嫌な気分だ。
何時もの寝心地より数段劣る寝台の上から部屋の隅を睨みつける。
「……なんで起こしてくれないの」
「なんでってお前なぁ」
はぁ、とため息をつきながらランサーが答えた。
「起こせなんて一言も言ってなかったろーが」
「そうだけど」
我ながら理不尽な事を言っている自覚はあるが、苛立ちを抑えきれず彼にあたる。
「……最悪」
膝を抱えて丸くなり、呟いた。よりによってこんな夢を見るなんて。
「悪夢を見てるってわかってるんだから、起こしてよ、気が利かない奴」
ぎゅっと自分自身を抱き締めるように腕に力を入れる。こんな風態じゃ何を言っても情けないだけだろう。
「……あー、わっかんねぇよ、そんなこと」
少し難しい顔をしたランサーが、そう言いながら此方へ歩み寄ってくる。
「だって、契約中のサーヴァントは」
「まぁ確かにマスターの記憶を垣間見ちまう時もあるけど、夢の内容まで共有しちゃいねーよ」
なんということだ、そうだったのか……⁉ しかしならばあの時のギルガメッシュは何故私の夢の内容を知りえたのか、
「……まぁ、お前結構寝言ひでぇけどな」
ランサーが気まずそうに目をそらした。
なん……だって……? 寝言、それは盲点だった、くそぅ、ギルガメッシュめ……!
「ま、今日は聖書の音読みたいなもんだったからよ、大丈夫だと思ったんだが……悪かったな気付いてやれなくて」
頭部にぽんぽん、と優しい感覚がある、ランサーの手のようだ。
「あぁそれと、俺はお前のプライバシーのためにも、寝る時は意識を切ってあるからよ、安心してくれや」
そう言って人の良さそうな顔でにっと笑う。
……評価を訂正しよう、なんて気の利く奴なんだお前は。それにしてもいつの間にこんなに親しげに接するようになったのか。
ランサーもだが……私も、初めは双方共に笑みではなく殺意の応酬をしていたというのに、
しかし、こいつは恐らく、私が敵対した瞬間にことも無げに私を殺すのだろう。
勿論私だってそうだ、綺礼の邪魔をするのならこの英霊を躊躇なく――
「……待って、綺礼はどこ?」
「ここだ」
奥の扉から声をかけられ、驚きに肩を揺らす、視線を向ければそこにはいつも通りの綺礼が立っていた。
「神父様! もう体は平気なの⁉」
「あぁ、お前のおかげでな」
というか何時からそこに、と顔をしかめる私の頬に、彼がそっと手を添える。
「今帰ったところだ……心配をかけたか?」
彼に正面から瞳を覗き込まれ、思わずどきりとする。
「う、ううん、よかった」
ふいと顔を逸らし、答えた。夢の中の彼とは違う、温かな笑顔に心臓の鼓動が早くなる。
……夢の中の彼はどんな顔をしていたか、忘れてしまったけれど。
「少し、面倒な用でな」
彼のその言い方に、恐らくギルガメッシュの事であろうと察する。後ろにはランサーが控えているのだ、滅多なことは口にはできないのだろう。
「それはそれとしてランサー、お前に頼みがある」
その頼み≠ニいうへりくだった言い方にランサーが反応する、もちろん私も。
「凛の護衛をして欲しい、少々面倒なことになりそうなのでな――」○ ○ ○
clap!
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