「彼らの手には悪い企てがあり、彼らの右の手は、まいないで満ちています。」

 幾つかの言葉を交わして、ランサーは直ぐに何処かへ向かっていった。まぁ話しの流れから考えても恐らく凛達のところへ向かったんだろう。

「さて……それでは私も少し休む事にしよう、お前は、どうする?」

 そう言いながら彼は先ほどまで私が横たわっていた簡素な寝台へ腰掛けた。どうする、というのは、「お前も休むか」ということだろうか。
 この、ひとつしかない質素な、ベッドで?

「……お断りします、私、今そんなに眠くないし」

 そもそもそんな狭いベッドで、綺礼のような巨体の男と二人で寝るなど無理にもほどがある。
 ……それこそ、隙間もないくらい密着して寝ていたとしても、

「どうした、顔が赤いぞ」

 彼の声ではっと顔を上げると、ニヤニヤと笑う顔が目に入った。

「……っ、本当、あなたって人は……!」

 最低、と吐き捨て出口へと向かう。

「どこへいく」
「ちょっと偵察にでも」

 また私が寝ている間に何か進展があったかもしれないし、綺礼も知らない情報を得られるかもしれない、無駄にはならないだろう。

「……そういえば王様は?」

 綺礼が外出していたのは恐らくあのギルガメッシュの事でだろうとまで考えはしたが、そういえば、何かあったのだろうか。

「用をひとつ、頼んであるのでね」

 なんの、と聞く前に、彼がほんの少し、口元を歪めた。

「聖杯の器の、回収をな」

 ――聖杯の器。
 小さく幼い少女の姿が脳裏に浮かぶ。恐らく、小聖杯――イリヤスフィールの、心臓を――回収、すると言ったのかこの男は。

「……そう」

 チクリ、と少し胸が痛んだが、彼女がどうなろうと私には関係がないことだ。
 交友関係もない、面識もない、そんな少女を助けたいと思うもの好きなど、それこそ、衛宮士郎くらいなもので、
 衛宮士郎、くらいの、

「そうか……」

 衛宮士郎ならきっと彼女を救いたがるのかもしれない。ならば、

「綺礼、その聖杯の回収、私に一任してもらえない?」
○ ○ ○


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