「十字架からおりてきて自分を救え。」
「っ、お、まえ……!」
私が聖杯から出てきた時、はじめに衛宮先輩の声が聞こえた。
心配するようなその声色に、あぁ、彼はやはりこの街一番のお人好しだったとぼんやり考える。
まだ少しだけハッキリしない意識の中で、周りを見渡せば、私が聖杯に飲み込まれて、大した時は立っていないようだった。
驚きに言葉を失う先輩の体はボロボロで、今にも壊れてしまいそうだ。いや、きっともう壊れているのだろう。
そんな先輩を横目に私は前へ進んだ、遠目に、凛とイリヤが見える。
「まさか」「そんな」なんていう声が今にも聞こえそうな顔で、二人は立ち尽くしていた。
……凛が来たなら先輩もきっと大丈夫だろう。フラフラと揺れる足をさらに進めた。
少しだけ離れた岩陰に、見慣れた大きな身体が横たわっているのが見える。
「……きれい」
そっと寄り添い、冷たい彼の身体に、もう動きを止めたそれに触れ、聖杯へ問いかける。
「……どうにか、どうか、十年前の、あの日みたいに、」
ふわりと、風が吹いた気配がして、私の体内から魔力が湧き出て来る。
「……っう、」
それは内に秘めた聖杯からの魔力、つまり、あの、呪いとも言える泥の魔力。
もちろんそれは普通の人間には毒ともなる呪詛の塊だ、だが、
「綺礼、元々、貴方の心臓、泥で出来てるんだから、これで、動かなかったら、許さないんだから……!」
手のひらを伝って、彼に魔力が注ぎ込まれていく。
その過程で、私の体内でパキ、パキリと、何かが割れるような感じがする。
……彼の心臓は恐らくこの魔力には耐えられるだろう、しかし、私の心臓は、この魔力に耐えられるだろうか?
(もう少し、もう少しだけ、もって)
周りの音が遠のいて、視界が霞む、口が渇いてもう息もできない。
(早く、早く……)
ようやく、彼に魔力を注ぎ終わった頃、
私の意識はプツリと切れた。
○ ○ ○
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