「夜、宿営の露がおりるとき、マナはそれと共に降った。」
「――っは、ぁ、」
目がさめる、全身が汗にまみれて気持ちが悪い。
乱れた息を整え、額の汗を拭いながら息を吐いた。
(また、この、ゆめ)
頭がズキズキと痛む、ウゥ、と唸りながら寝返りを打つと、窓辺に浮かぶ赤い瞳と目が合った。
「起きたか」
「……ギルガメッシュ」
名を呼べば薄っすらと笑いを浮かべて彼はこちらへ歩み寄る。金の糸のような綺麗な髪が揺れ、私の寝台へと腰掛けた。
「英雄王ともあろうお方が、こんな夜更けに何か御用ですか?」
悪夢を見た事による不安な気持ちを和らげるために、少しかしこまった口調で可笑しそうに問いかける。
「ほう? 初心な生娘でもあるまいし、この時間に男が女と褥《しとね》を共にするというのが、どういうことかわからぬわけでもあるまい」
ギシ、と寝台を軋ませながら彼の手が私へ伸び、細い指が、私の頬に触れ唇をなぞっていく。
「お……お戯れを、ただの魔力供給ですよね?」
「色気のない小娘よな」
は、と軽く笑いながら、かの英雄王はおおよそ彼の好みではないであろう娘の上に覆い被さる。彼の指が目元に触れ、雫を掬い上げた。どうやら私は涙を流していたらしい。
「……恐い夢にうなされて、泣いていた女の子に突然襲いかかるなんて、王様は随分と物好きなことで」
呆れた様に呟いてから、しまったと口を塞いだ。
今は気分屋の英雄王と二人きり、もし機嫌を損ねれば私の命一つ軽々と摘まれてしまうだろう。
だが私の不安を他所に、英雄王はカラカラと笑った。
「くく、そうよな、物好きなのであろうな? しかし涼よ、お前の魔力、中々に美味であるのでな」
私から掬い取ったその雫をペロリと舐める。その仕草と、私の全てを見透かしている様な赤い瞳におもわず身震いをした。
「……お好きにどうぞ、でも私の魔力だって無限ではないですから、ほどほどに」
「知らん」
ゆっくりと彼の顔が私の喉元へと近づく。王様のこういった気まぐれには毎度毎度頭が痛くなるばかりだ。
まぁ、それにももう慣れっこだ、いいけどね、と観念して目を閉じた。
目を閉じて、
あの人のことを考える。
そうすれば夜はすぐ終わる。
おやすみなさい、英雄王、また明日。
また明日。
○ ○ ○
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