「その言葉の声を聞いたとき、顔を伏せ、地にひれ伏して、深い眠りに陥った。」」

「これらのことをあかしするかたが仰せになる、<しかり、わたしはすぐに来る> エィメン、主イエスよ、きたりませ。 主イエスの恵みが、一同の者と共にあるように。」

 パタンと音を立てて彼の持つ本が閉じられ、ようやく終わったとほっとひとつ息を吐いた。

「お望みならもう一度はじめから読み聞かせてやっても良いが?」

 そう言い、にやりと彼が笑う、私は身震いしながら結構です! と叫ぶ。
 夕飯が終わってからすぐに、私は彼の私室…ではなく礼拝堂に呼ばれ、長々と聖書の教えを説かれていた。
 正直そんなもの内容もよくわからない上に、彼の低音がとてもとても耳に心地よく、こんな時間に、薄暗い礼拝堂で、そんな話をされても眠気だけが培われるわけで。私はうとうととしながらも、ここで寝てしまった時の後を考えて必死に目をこじ開けていたのだ。

「私がわざわざお前一人のために神の教えを説いているのだ、感謝こそすれそんな顔をされる覚えはないのだがな」

 白々しい、私がそういうことがとてつもなく苦手なことをよく知っているくせに。

 しかしそう言われてしまえば感謝の言葉を口にするしかない、まったくもって不本意だが渋々といったように「ありがとうございました」と口にすれば、彼は愉快そうに頷いた。

「さて、そろそろ良い子は寝る時間だな」
「……寝かせてくれなかったのは悪い大人のくせに」

 べ、と舌を出して反論、
 ――をした口に、彼の唇が重なる。

「おやすみのキスは、これで満足かな?」
「は…………!」

 顔がかあっと赤くなるのが自分でもわかった。
 これは敵わない、と観念して立ち上がる。もう大人しく部屋に戻るしか私には出来ない。

「おや、今日は添い寝はいらないのかね? 必要ならば昔のように枕元で聖書でも読み聞かせてやろう……あぁ、昨夜のようにと言った方が正しいか」

 楽しそうな彼に向き直り、「いらない!」と声を張り上げた。
 足音も荒く、礼拝堂を後にする。

「おやすみ涼、今夜こそ良い夢を」

 重い扉が閉まる音に紛れて、そんな声が聞こえた。

「良い夢を」
 
 繰り返すように口にして、少しだけ立ち止まる。

(良い夢なんて、)

 見られるはずがない、だって私は、
 
(きっと今日の夢も、知っている)
○ ○ ○


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