11章「フィールドワーク」


「ご飯できたよ」
「……」

 出来立てホカホカの夕食をテーブルに並べ、バーサーカーに声をかける。私達は美樹と別れた後そのまま家に帰り、時間も時間なのでと夜ご飯の調理を済ませたところである。これから実食だ。
 だが、バーサーカーは私が運んできた料理を睨みつけたまま、動こうとはしなかった。なぜだろう、もしかして肉は嫌いだっただろうか。バーサーカーが好きそうだと思い、少し奮発して牛肉などを買ってみたりしたのだけど。

(見た目、肉食獣っぽいし……)

 焼いただけになったのはご愛嬌、普段はあまりお肉などは買ったり食べたりしないので、どう調理して良いかよくわからなかったのだ。けれどその隣にある唐揚げなどは自信がある、あとトンカツも。
 ……こうしてみると本当に茶色まみれだ、もしやそれが不満だとでもいうのだろうか。意外と健康志向……?

「……さっきも言ったが、サーヴァントに飯は必要ねぇ」
「あー……」

 なんだそのことか、とホッとする。私の作ったご飯自体に文句があるわけではないようだ。

「さっきも言ったけど、魔力供給にもなるし、味覚はあるんだよね?」

 彼はやはり渋々といった様子で椅子に座る。ちなみにその椅子の背もたれはない。さっきバーサーカーが(しっぽで)壊した。

 尾があって座りにくかったのなら破壊行動に出るより先に言って欲しかったかなー、とは思う。まぁいいけど。
 彼が席についたのを確認して、私も無事な方の椅子に腰掛ける。手を合わせて「いただきます!」と言えば、彼も繰り返すように「……イタダキマス」と呟いた。

 箸は使いにくかろうとフォークを用意してみたが、彼はそれすらも使わずに素手で唐揚げを掴みヒョイと口の中に放り込む……昼間も思ったが、熱くないんだろうか。
 もぐもぐと咀嚼していると思ったら、すぐに飲み込んで次の肉に手を伸ばし、また口に入れる、そしてまたすぐに次の肉、まるでポップコーンのような気軽さでお肉がどんどん減っていく。

「バーサーカー、付け合わせも食べてね」
「いらん」
「私だって葉っぱだけは嫌だよ、お肉と一緒に食べて欲しいな」
「……チッ」

 軽い舌打ちの後、今度は千切りにしたキャベツを一緒に食べ始めた。

(素直だ……)

 お米は茶碗ごとひっくり返して頬張っている、口が大きいなぁ。
 そうこうしている間に食卓に並べられた料理はすっかり平らげられてしまった。お味噌汁に口をつけた際、一度ピタリと手を止めて「しょっぺぇ」とこぼした以外は何を言うでもなく食べきっていたので、及第点ではあるんだろうか。
 むしろ味の文句とか言うんだ、このサーヴァント。

「ごちそうさまでした」
「ゴチソウサマ」
「はい、お粗末様でした」

 食器を下げて食後のお茶を出すと、今度は何も言わずに飲み始めた。表情は相変わらずしかめっ面のままだが、尻尾が心なしか左右に揺れている。
 ……先程から思っていたが、なんだか、こう、

 ──ペット、みたいな。

「なんだ」
「い、いや、なにもっ?」

 ついバーサーカーを凝視していたことに気づいて慌てて目をそらす。こんな失礼なことを考えていたと知れたらまた気を悪くするかもしれない。

「そうだ、今後のことなんだけど」

 彼の前にこの街の地図を広げ、土の入った瓶をその上に点々と並べた。

「なんだそれは」
「ふふ、ただ何もなく歩き回っていただけじゃないんだよねこれが」

 紐のついた水晶を取り出して私は得意げにふふんと鼻を鳴らす。もちろんただの水晶ではない、私が丹精込めて削りあげた、お手製のペンデュラムだ。強い魔力に反応するように作ってある。

「ダウジングってやつ、たしかに私は魔力感知には疎いけど、こうして土に含まれる魔力の強さを量れば敵のサーヴァントやマスターがいそうな場所がわかるってわけ」

 教会のようにもともと良い霊脈のある土地は強い魔力反応を示すかもしれないが、そんな事はもちろん折り込み済みだ、抜かりはない。

「これでだいたいの場所がわかったら、直接そこを調査してやられる前に殴り込みに行こうってこと!」

 我ながら完璧な作戦だ、惚れ惚れする。

「さーてどこにいるのかなー?」
「……」

 ワクワクとした気持ちでペンデュラムを地図の真ん中に垂らし、魔力を込めた。すると水晶の先は迷う事なく一点を指し示す、しかも普段とは桁違いの強さで、

「えっ!? 嘘!? いったいどこ……を……」

 ──側に立つ、クー・フーリン[オルタ]の方を。

「……そうなるんじゃねぇかとは思っていたんだが」
「〜〜っ! バーサーカー! ちょっと離れて! もう一回!」



 ……だが何度やっても、出来る限り彼を離したとしても、結果は同じに終わった。



「うー……絶対うまくいくと思ったのに……」

 藤堂楓、一生の不覚。もはやうなだれるしか無い。バーサーカーも心なしか呆れたような顔でこちらをみている気がする。

「んなことしなくても魔力の濃度が高い場所ならわかるだろう」
「え!?」

 それはどういうことだ、と顔を上げると、バーサーカーは地図上のいくつかの点を指し示した。

「教会、公園、神社、学校……なんで?」
「昨日と今日で直接出向いただろ」
「行っただけで……」
「……お前も魔術師なら、わかるもんじゃねぇのか、普通」

 彼の言葉が胸に刺さる。おっしゃる通りで……おっと涙が出てきたぞ?

「と、とにかく、明日はその辺りを重点的に探索しよう! うん!」

 ……と意気込んではみたが、不運にも明日は月曜日、学生には学校というものがある。だがまぁ、バーサーカーが指し示した場所には学校も含まれている。登校自体が探索の一環と思えばそれにもちゃんと意味がある。
 そう結論づけた私は、明日のためにも早めに眠りにつくことにするのだった。

 ……そういえば、課題、終わらせてたっけなぁ……

  ******

 暗闇は俺の領分だ。

 偵察、暗殺、闇討ち、なんだって俺の能力があれば難しい事はない。

「あれが、ライダーを倒したサーヴァントのマスターね」

 正しくは倒す一歩手前まで、だが。

「さぁて、楽しめるといいなぁ、マスター?」

 傍に立つ主人にニヤリと笑いかけ、俺達はまた夜の闇に溶けて消えた。

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