14章「偽の家臣」


 首が締まる、息が苦しい。

「っぐ……」
「おーっと、静かにしてくれよ、お嬢さん。一日とはいえ共に過ごした仲だ、出来る限り丁寧に殺してやりてぇしなぁ?」

 ニヤリ、笑った男の顔を見てゾッとする、恐ろしい、素直にそう感じた。
 なぜこの男が私を殺さずにいるのかはわからない、けれどもし、もし突然思い立ちこの腕で強く私の首を絞め上げたら、私は、私などは一瞬で、

「……っ」

 ――――こわ、い、

「その子を離しなさい」

 凛とした声に、はっと顔を向ける。十文字先生の、声だった。

「ははぁ、怖い怖い、けどダメだね、アーチャーとそのマスター、あんたらが一歩でも動けば……殺すぜ?」

 この女を、と私の首をぎゅっと強く絞めてみせる。これは、きっと脅しでは、ない。

「さてどうする? 仮にも同盟を組もうとしていた相手だ、見捨てたとあっちゃ以降の協力は望めないもんなぁ」
「……」

 先生方は手を出さない。悔しげな表情で男を睨み「何が望みだ」と声をかけた。

「そうだな……あんたらの命、つって差し出すわけもないだろうし……令呪でももらうとしよう、適当な命令で令呪を三画、使い切ってもらおうかなぁ?」
「……!」

 それは、つまりマスターの権利を放棄しろと言うことか。

(そんなの、できるわけない……!)

 この状況でサーヴァントを失えばどうなるかなんて私でもわかる。私がこのサーヴァントなら、私も先生も生かして返すわけがない。

「ダメです、マスター!」
「……」

 アーチャーは私と同じ考えのようだ。彼女が止める限り、そして先生が一般的な魔術師の思考を持っている限りは軽率な行動には出ないであろう、ならば、あとは私がどうやってこの男から離れるかだが、

「……ね、ねぇ、本物のバーサーカーはどうしたの?」

 私を捕らえたままの男に問いかける。

「うん? それを知ったところでどうしようもないだろう、あんたには」
「安否くらい、知りたい……大切な、サーヴァントだから……」
「……ふぅん」

 大切な、という言葉を聞いて少し考えるような顔をした後、彼はニヤリと笑ってこう答えた。

「うちのマスターの魔術でちょっとばかし深く眠ってもらっているだけさ、ま、どこにいるかまでは、言わないけどねぇ」
「……そう」

 眠っているだけ、か、安心した。消滅したり、操られたりしているわけじゃないなら問題はない。

「――令呪をもって命じる、バーサーカー! 今すぐ来て――!」
「……! しまっ、」

 割れるような音と共に私の手の甲から令呪の一画が消える。男が今、すぐに私の息の根を止めようと腕に力を込め首の骨が軋む、が私を殺すにはそれでは遅い。
 令呪の強制力は……いや、私のバーサーカーはそれ以上の速さで私を捕らえていた男を吹き飛ばした。

「っは……! っごほ、ごほっ……!」

 気道を塞いでいた腕が離れ、ようやく肺が酸素で満たされる。よかった、まだ死んでない。

「……これは一体、どう言う状況だ、楓」
「……っ、バーサーカー……!」

 思わず彼の元へ走り寄ると、彼はひどく面倒だと言う声で「邪魔だ、退け」と舌打ちをこぼした。けれど、決して無理に突き放しはしない。
 ……今度こそ、本物だ。

(良かった……)

 ホッと息を吐いたところで先生が私を呼ぶ声がして振り返る。

「……っはぁー……効くねぇいやはや……こいつは分が悪くなっちまったなぁ」

 バーサーカーの一撃をまともに食らっているはずの男は、なんでもないように立ち上がり、笑う。何も聞かされていないバーサーカーも、とりあえずは奴を敵だと認識したようで、もう一度槍を構えた。

「おーっとこりゃ参ったね、多勢に無勢、一旦引かせてもらおうか」

 そういった彼の姿が消える…見えなくなる。気配遮断のスキル、相手は恐らく、アサシンのクラスのサーヴァントなのだろう。

「……っ、待て!」

 先生がアサシンの走り去った廊下に飛び出し周囲を見渡す、もちろん、視認できるわけがない。

「厄介だな、これでは追跡できそうにない」
「申し訳ありませんマスター、お役に立てず……せめて対象の位置さえわかれば」

 アーチャーが悔しそうに唇を噛んだ。それは難しい話だろう、姿を隠したアサシンを見つけるなんて――いや待て、

「……アーチャーさん、今、位置さえわかればと言いました?」
「え、えぇ、位置さえわかれば、ある程度離れていようと仕留めてみせます」

 大した自信だ、ならば、その腕に賭けてみよう。

「先生、アーチャーさん、私に策があります」 



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