18章「眠りに落ちる前に」
大きなため息を一つ、盛大に吐いてからベッドに横たわる。疲れた、今はとにかく眠りたい、と時計を確認すれば、すでに午後八時を回ったところで、なんだ、確かに眠くなっても仕方ないな、と納得した。
結局あの後は──先生が、アサシンの元マスター、柚月さんに「教会の保護を受けるように」としっかり言い含めてから帰し、改めて四人で同盟≠ノついて話し合いを行った。
期限はセイバーを倒すまで、それまでは今日アサシンを破ったように協力して敵を倒そうという話だ。
悪い話ではない、が、正直、サーヴァントの強さだけで言うならバーサーカーは単騎で充分セイバーに敵う、協力の必要性はないようにも思える。
……サーヴァントの強さだけで言うなら、だが。
(足りてないのは、私《マスター》の力、か)
ぼんやりと天井を見つめながら手を伸ばす。手の甲に刻まれた令呪が一画減っているのが視界に入り、情けなくなる。
(私がもっとちゃんとしてれば、もっと早く気づけたのかな)
わからないけれど、少なくとも腹に大穴を空けるほどバーサーカーに無理はさせなかったかもしれない。
後悔が、無いわけではない。
特に先生の実力を目の当たりにしてからは、私よりも彼に召喚されていたなら……とさえ考えた。
「……バーサーカー」
「なんだ」
「バーサーカーは、どう思う?」
おもむろにそう問いかけると、彼はわざわざ霊体化を解いてから「何がだ」と聞き返してくれる。顔を合わせて話をしてくれようとしているのだろうか……いい奴だ。
「先生とアーチャーと共闘する話」
「どうもなにも、二つ返事で了承したのはお前だろう」
「そうなんだけど」
確かに、私はあの場でその話に乗った……そして信頼の証として、こちらも真名を名乗り返した。
「アルスターの戦士、クー・フーリン、かぁ」
「……サーヴァントの真名ってのは、おいそれと口にするもんじゃねぇと、あの弱気な神父に習わなかったか?」
「う、いいでしょ、誰も聞いてないって、多分」
ゴロンと、寝返りを打って彼の方へ体を向ける。今更ではあるが、彼が姿を見せてくれたと言うのに私が寝転んだままではいささか失礼かもしれない。
でもまぁ許してくれるだろう、彼はサーヴァントで私がマスターなんだから。
「ふぁ……」
ついつい大きなあくびを漏らしてしまい、そういえばすごく眠たかったんだということを思い出す。思い出してしまうと眠気は途端に酷くなり、自然とまぶたが落ちるのはすぐのことで、二、三度瞬きをするともう目は開かなくなっていた。
もう仕方がないので「ごめん、ねるね」とだけ最後に呟き、私はそのまま丸くなる。もうすぐ肌寒くなる季節だけど、布団に潜るのも面倒だ。
もうほとんど眠っているような意識の中で、バーサーカーが何か言っているような気がして、少しだけ目を開ける。
「……お前が俺を裏切らない限り、俺は変わらずお前の槍だ」
彼の黒い腕が伸びてきて、私の頬にそっと触れた。きっと冷たいのだろうと思っていたそれは、意外にも温かくて、
あぁ、でもそういえば、前に触れた時も、そうだ、温かかったなぁ、
「だから────」
だから? だから、なんだろう。バーサーカー、よく、聴こえないや。
なぁに、と聞き返そうとしたところで、私の意識はぷつりと切れた。
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