22章「ファミレス会議」
「さて、それでは対セイバーについての話に入ろうか」
「……はい……」
はぁー、と、今度のため息は私の口から出たものだった。先生がそう言ったのはこの店に入ってから二時間ほど経ってからのことである。その間何をしていたかといえば、魔術書の解読について延々と教えを受けていたわけなのだが……それが、どうにも私には難しすぎて、脳が、もうキャパシティーオーバーでパンクしてしまいそうなのである。
正直、先生が解読して中身だけ私に教えてくれないかな、と思ったが、それを言ったらまた怒られるだろうから黙っていた。私偉い。
とりあえずとしては、今日の話を元に自身の力で読み解いてこいという結論に至った。宿題みたいだ、うぅ、頭が痛い。
「……きいているか」
「は、はーい、聞いてます聞いてます! マスターの所在に心当たりはないかって話ですよね!」
授業中のように、ぼうっとしていたところを指摘されビクッと体が震える。一瞬ここが教室のような錯覚さえする。
「そうだ、私の方では特にサーヴァントの気配などは捉えていない、目下調査中といったところだ」
私は少し悩む素振りを見せてから「ちょっとだけ心当たりがあります」と切り出した。
「何? 本当か?」
「はい、これを見て欲しいんですけど」
そう言って一昨日の夜に家で広げたのと同じ地図を広げる。それにはあの時バーサーカーが指した箇所にバツ印をつけておいていた。
「学校、公園、そこの川辺、お寺、それから……まぁ見てもらったほうが早いですね」
「……ふむ、君、これはどうやって?」
「ふふん! もちろんフィールドワークというやつですよ、先生、魔術師だって足が基本ですからね!」
得意げにダウジングのことを先生に話す。……本当は失敗してバーサーカーに教えてもらったのは内緒だ。
バーサーカーも黙っていてくれるし、わざわざ話すこともないだろう。
「なるほど、藤堂、君にしては賢い方法だ……成功しているのならばな」
「……あはは」
バレているかもしれない。
「ほ、方法はともかくとして信憑性はありますよ! それは保証します、なんなら賭けたっていいですよ!」
「まぁ、そこは信じるとしよう、君は嘘が下手なようだしな」
「んぐっ……」
飲もうとしたオレンジジュースが気管に入る。この全てを見透かされている感じ、どうにかならないものか。
「えー……と、そ、それでですね! 早速明日の朝から私は詳細な調査を開始しようと思うわけなんですが!」
「……明日? 明日も学校があると、私は記憶しているが……?」
ピクリ、と地図をなぞっていた先生の指が震える。私は意図的に目を逸らしながら「思い立ったが吉日、善は急げ、ですし?」と言葉を続けた。
「な、情けないことに、私は昨日今日、バーサーカーの魔力を隠すことなく歩き回っちゃったわけですから、このまま大人しく学校に通ってても格好の的です、それよりもどうせならこちらから見つけ出して……それがダメでも、せめて撒き餌として敵をおびき出すくらいは出来るはずですし」
「う、うむ……」
私の言葉も一理あると感じているのか、先生の態度はなんだか煮え切らない、今なら押せば私の意見も通るのではないだろうか。
「たしかに、学生の本分は学業です! でもそれは命あってのことですから……なにより、どうせ調査は行うべきなのですから、先生が学校をお休みするより私が休んで調査に赴いたほうが、社会的損失は少なくて済むんじゃないかって思うんですが!!」
「む……」
完全論破、である。なんとあの十文字先生が二の句を紡げずに黙り込んでしまった。
先生は無言のまま百面相を始めてしまい、しばらく頭を悩ませていたようだが……ついに、「仕方があるまい」と大きな大きなため息を吐く。
「やっ……たー!」
先生公認の
休み許可をもらった私は思わず大きくガッツポーズで立ち上がる。先生の「おい」という声で我に帰った私は大人しく席に座りなおし、それでも少し浮き立つ心で「それでは明日放課後にまた報告会ということで」と残りのジュースを飲み干した。
「あぁ、ついでに、その時に明日の授業分の課題プリントも持ってこよう……君が授業に遅れることがないように、な」
「え…………っ! あ、う、は、はい……」
にこり、と微笑む先生に、「アリガトウゴザイマス……」と表面だけの感謝を口にして、私は空のグラスを静かにテーブルの上へ戻した。
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