2章「サーヴァント」
街外れにある、本当に普通の一軒家。それが私の家だった。
ただいま、と声を掛けるも返事はない。それはそうだ、今は私一人の家なのだから。
「えっと……家に着いたからもう出てきてもいいよ、バーサーカー」
「……」
無言のまま彼が霊体化を解く。召喚時は恐ろしく大きく見えたが、こうしてみるとなんてことはない、少し背の高い男の人くらいだ。
だがやはりその大きな尾──と、手足に纏った黒い鎧が実際よりも彼を大きく見せているようだった。
「おい、小娘」
「は、はい」
なんでしょう、と恐る恐る聞き返すと、「さっきのはなんだ」と機嫌の悪そうな声が返ってくる。
「さっきの……あぁ、これのこと?」
そう言って私は先程森で使ったモノクル≠取り出す。
「これは相手のステータスを覗き見る事が出来る魔術礼装だよ。対魔力がそこまで高くなければ大体のことは見れるはず」
とは言っても、今は壊れて使い物にならなくなったのだが……所謂オーバーヒートという奴だ。
まさか本当にサーヴァントの真名までわかるとは思っても見なかったが、すぐに壊れてしまうのは難点だ。
「まだ改良の余地があるなぁ、これ」
「……てめぇで作ったのか」
「え、う、うん」
ぼそり、と独り言のように呟いたのだが、意外にも彼は反応をしてくれた。思ったよりは友好的なのかもしれない。
「魔術的な才能はからきしなんだけどね、こういうのは昔から上手くて……へへ」
「どうりで、流れてくる魔力量が少ねぇわけだ」
前言撤回、あんまり好意的ではないかもしれない。
「一応気にしてるんだけどなぁ……はは」
優秀な魔術師である父と母、その間に生まれたサラブレッドの私。
けどなぜか才能なんてものはなく、私としても少し……いや大分、コンプレックスになっている。だからこそ技術を磨き、道具作成に力を入れているのだが……
ちなみにその優秀な両親は各々世界各国を飛び回っている、いつ帰ってくるかは私にはわからない、多分本人たちにもわからない。
「それで、これからどうするつもりだ、小娘。セイバーとやらの正体は掴めたが……こちらから襲撃でもしにいくか?」
……少しもやっとする。
なぜって、このサーヴァントはさっきから、私のことを「小娘」としか呼ばないから、だ。
「……あの、私一応、マスターだし、小娘って呼ばれるのは、その」
ギロリと彼に睨まれた気がして身がすくむ。……いや、ビビってどうする、私が彼のマスターなんだから、堂々としていなければ。
「マスターねぇ……そういうのはきちんと魔力を回せるようになってから言って欲しいもんだな。このままだと宝具一発打てやしねぇぞ」
「うっ……」
それを言われると痛い。
「小娘が嫌ならお嬢ちゃんとでも呼んでやろうか」
なぁ? と言う彼は無表情のままで、それが冗談かどうかも判別がつかない。
「じゃあ、せめて名前、名前で呼んで」
そういえばまだきちんと名乗っていなかった、ということに気づいた私は、改めて彼に向き直り、こほんと一つ咳払いをした。
「えっと……私は藤堂楓、あなたのマスターだよ」
一応、とちょっと控えめに付け足して、右手を差し出す。彼は少しの間私のその手を見つめた後、眉ひとつ動かさずに、
「……バーサーカー、クー・フーリン[オルタ]、たった今からお前の槍だ、楓」
と、それだけを言った。
「えっ……あ、な、名前、なんだね」
てっきり苗字の方で呼ばれるだろうと思っていた私は、少し戸惑う。「お前がそうしろと言ったんだろう」と彼は少し眉間にシワを寄せた。
「あ、うん、そうなんだけど」
握り返されることのなかった手を引っ込める。名乗りはしても握手をするつもりはないらしい。すこしさみしい。
「とにかく、これからよろしく、バーサーカー」
今度は返事もない。必要ないと思っているのだろうか、だろうな。
……問題は山積みだが、戦いの幕は既に降りた。私は……私たちはもう、前に進むしかないのだ。
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