28章「ひとり」


 美樹は、十文字先生が家まで送り届ける事になった。

 今はベンチに座らされて、地面を見つめたままじっと動かないままでいる。時折、滴がぽたぽたと落ちるのが見えた。

「…… 藤堂、今日のうちに話しておきたい事がある……協力関係についてだ」
「あ……えと、そう、ですね……期間は、セイバーを倒すまで、って話でしたもんね……」

 セイバーのマスターであった美樹に気を使っているのか、少しだけ小声で先生が言う。私も彼女のことは気になるが、大事なことだ。ここできちんと話しておくべきだろう。

「ああ、だがここで勝負をつけるつもりはない」

 それはこちらとしても有難い。パスが正常に通るようになったとはいえ……いや、なったからこそ、連戦を出来るだけ避けなければ、私の命に関わってくる。

「……明後日の夜、教会の裏手にある森の中で決着をつけよう」
「わかりました」

 教会の裏なら、幼い頃、よく遊びまわっていた森だ。地の利はこちらにある。断る理由は、特になかった。

「……一日猶予がある、せめて後悔はないようにしておけ」
「もう勝つ気ですか」
「いいや、……私もそうするというだけの話だ」

 そう言って先生は美樹の方へ歩み寄る。アーチャーが美樹の背を撫でて立ち上がるように促した。

「美樹……」

 彼女達が私の横を通り過ぎる時に、親友の名前を小さく呼ぶ。目が合うことはなかったが……私よりももっとか細い声で、ごめんね、と言っていたのが聞こえた。

 勝ったのに、勝てたのに──ひどく、寂しかった。

「…………あー、うん……とりあえず、帰ろうか、バ──」

 ドサリ

 本の束を落としたような低い音がする。振り返ると、バーサーカーの巨体が、地面に倒れ伏していた。

「ば、バーサーカー……!?」

 呼んでも返事はない。たった一人残された私は誰に頼る事もできず、なすすべもなくただ彼の身体を揺することしかできなかった。

 あぁ──いつの間にか、陽は西の空に沈み切っていた。

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