29章「小野田美樹の独白」


 絵に描いたような「優等生」でした、私は。

 勉強は好きだし、運動は人並み以上にはできた。真面目にコツコツやっているのを評価されて、次期生徒会長≠ネんて呼ばれるようにもなった。

 だけど、本当に良い子≠チていうのは、楓ちゃんみたいな子の事を言うんだと思うの。

 勉強は苦手でよく先生に怒られてはいるけれど、嘘が嫌いで、まっすぐ、素直で……。
 それは、優等生≠ナあることより、ずっとずっとすごい事だと、私は思うの。

 ──私ね、最初から、楓ちゃんが聖杯戦争に参加していること気づいていたの。

 だって楓ちゃん、隠し事下手なんだもん。
 授業中の居眠りが多くなったし、放課後は急いで帰るようになって、寄り道のクレープもミルクティーもなし。

 きっと毎日、聖杯戦争に向けて準備してたんだよね。

 毎日毎日……楽しそう、だった。

 私はお父さんに言われたから参加するだけで、本当はこんな事したくなかったから、すごく羨ましかった。
 もういっそ全部打ち明けて、聖杯なんて譲っちゃおうかなんて考えたこともあるよ。お父さんには失望されるかもしれないけど、そっちのほうがいいかもって。

 けど、セイバーに会って、それはできなくなった。

 ──はじめてだったの、あんなに心奪われる人は。
 ──はじめてだったの、あんなに胸が苦しくなったのは。

 だから、どうしても彼を私のものにしたくて、そのためなら何だってできると──

 ──できると、思ってたんだ、でも、ダメだった。

 彼が楓ちゃんごとバーサーカーを貫こうとしたその時、思わず「まって」って叫んじゃったんだ。
 それがなければきっと、勝っていたのは私達なんじゃないかなって思う。

 私が楓ちゃんに死んで欲しくないと思ったせいで、彼は負けてしまった。
 そして、私が彼を欲しがったせいで、楓ちゃんを傷つけてしまった。

 どっちつかずが一番よくないんだって身に染みてよくわかったよ。

 それに、友達∴齔l犠牲にできない私は、やっぱり魔術師に向いてないんだってことも。

 ……今はまだ、彼を失った悲しみに俯いたままでいさせて欲しい。
 だけどもし、楓ちゃんが全てを終えた後に私の名前を呼んでくれるなら、どうかきちんと面と向かって「ごめんね」を言わせて。

 こんなの都合良すぎるけれど、良い子でも、優等生でもなくても、

 あなたの友達に戻りたいから。

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