2023/8/31〜9/29
語り手:草鹿やちる



「花火を作りたい……ですか?」

「うん!お願い、つのりん!」

「誰がつのりんですか」


 だってツノはえてるし!
 ぴったりなアダ名でしょ?

 あたしね、花火ってこの前はじめて見たんだ。西流魂街でお祭りしてるなんて知らなかったけど、瀞霊廷からも見えたの。ひゅるるる〜ってお空に上がって、ドン!火があんな風に、お花みたいにパッとひらくなんて!とってもキレイだったなぁ。花火って夏のフウブツシ、なんでしょ?だから八月のうちに、もういっかい見たいなって。


「で、なんでまた技局こちらに。斑目三席も割と器用な方でしょう。手製の手持ち花火くらい何とか作れるんじゃないすか」

「手持ち?ドンッていうのがいいな!あと、みんなにはナイショにしてちょうだい?」

「……十一番隊の皆さんを驚かせてあげたい、と?」

「そうそう!つのりんは話が早いね!」

「だから誰が」


 ああいう花火って、火薬をつめた玉を大砲で飛ばすんだって。完成した玉にはそれぞれ名前を付けてあげるんだよっていうのも、りんりんが教えてくれた。その花火のいいところとか大きさとか、生き物とか色の名前も組み合わせたりして。
 「どうやって作るんだろう?もっと知りたいな」ってきいたら、「仕組みのことなら私より十二番隊さんが詳しいかも」って。つるりんも剣ちゃんもよくお世話になってて、いろいろ作れてすごいってことは知ってたから、こうしてお願いしに来てみたんだよ!


「俺こう見えても忙しいんです。金矢さんの義手の最終調整とかで」

「かっつんの?そっか、それはよろしく!じゃあ、だれか他に一緒にやってくれる人いないかな?」

「そこにいる眼鏡女子、久南ニコっていうんですけど」


 つのりんが指差したさきには、画面とにらめっこ中の鎖のおさげの女の子がいた。ちょっとだけ知ってる、りんりんとよくお話してる子だ。


「えっ……ちょっと阿近さん!自分のアダ名が気に入らないからって人を巻き込んで!義手なら『ゆっくりやるわ』って言ってたじゃないですか」

「どーせいつかは付けられてたって。草鹿副隊長、最近よくココ来るし」

「でもあたしだって仕事が……」

「嘘つけ、ちょうど明日とか暇だろ。それにここんとこまたずっと外出てねえみたいだしな」

「うっ」

「打ち上げ許可の手続きなら何かの序でに俺がやっといてやるから。根詰め過ぎなんだよ。夏休みだと思ってちょっとくらい遊べ」

「うぅ……」


 きまり?お話まとまったかな?っていうかこの子、よく見たらお肌まっしろ!おひさま浴びてないからかな?つるりんなんてこんがりしちゃって、年季の入った木魚みたいになってきてるのにね!


「ニコるん一緒に花火やろ!つくろ!」

「え!?えっと、それはちょっと何ていうか……あ、アダ名、違うのにしてもらえませんか?」

「どうして?」

「ど……どうしても!」

「ふ〜ん?しょうがないなぁ。じゃあ……ニコちん!」

「ニコチン!?」

「よう、毒性植物塩基」

「もうッ!阿近さん!」


***

『 8がつにち

 三しゆう門くらいニコちんのところ(こ かよって、いっしよに花火おつくりました。ワリとか、ホ゜ カとか、なんとかシウムがナょんとか反のうとか、す′ ずかしくてあんまりわかんなかっナ= けど、あたしが「こんながいいな」「あんなふうに光るといレ ) な」とうと、ニコちんが火やくをえらんでくれたので、ていねいに、心をこめて玉につめましナ= 

 ――「もうニコチンでいいですよぅ」
 ――「草鹿副隊長がお祭りで見たような、とっても大きいのにはできませんけど……綺麗に開くといいですね」

 いっしよにがんレよ゛ ってくれたニコちんわ、やってくうちにだんだんたのU くなってきナこ みたいです。まっしろだった|ま っぺは、元きなモモみたいになりました。
 たく±んの花火王が完せいしました。かた手にのるコロソと小ちいのから、けまりより大きいのまて゛ 、いろいろあります。
 Γできたよ」ってつのりんに|ま うこくしたら、「うち上げはこっちでやってかる」とやくそくしてしれました。ニコちんにわ、「おまえもふくたいちょラと見てくればいい」とってくれたそうて゛す。いそや゛しいってってたのに、つのりんナたらレナ っこう世わやきみたいて゛ す。

***


 ……うーん、絵日記ってこうでいいのかな?いっぱい書いたら、ちょっと手がつかれちゃったな。おえかきの続きはまた明日にしよっと!


「んふ、楽しみ♪」


――――――


「みんなコッチ〜!ほら、はやくはやく!」


 よかった、みんな来てくれたんだ!
 十一番隊舎にあるなかでも、お空が一番よく見えるお庭に集まってもらった。つのりんがね、十二番隊の敷地で打ち上げるから、ウチから見ればちょうどいいはずだって言ってたんだ!

 実はきのう、「みんな!明日の夜ごはんのあと、あっちのお庭に来てね!」って食堂で呼びかけたんだけど、あんまり乗り気になってくれなかったんだよね。「副隊長命令!」て言ってなんとかしたけど。
 つるりんは「今度は何のイタズラ思い付いたんすか」って警戒してたし、ゆみちーは「お茶会なら昼の方がいいと思いますよ」って勘違いしてたし。そのとき二人と一緒にいたかっつんは「お茶会?大福でも拵えましょうか?」って。花火を見るのに大福があってもこまらないし、それは「うん!豆がいい!」ってお願いしちゃったんだけど。剣ちゃんは夜寝る前にそのお庭のそばの縁側でよくお酒を飲んでるせいか、「晩酌に付いて来んのは構わねえがあんまり騒ぐなよ」って、これも勘違い。
 でもね、遅れて食堂に来たりんりんは、すぐ「わかりました!」って言ってくれた。なんかあたしがウキウキ楽しそうなのが伝わったから「何だか分かりませんが何でもいいですよ!楽しみにしてます!」って。みんなも呼んだんだけどね……ってお話したら、「じゃあ私からも声掛けておきますね」って協力してくれたんだ。りんりんいい子〜!


「ん?あそこにいるのは技術開発局の子じゃないか。沙生が呼んだのかい?」

「えっ?ううん、違うけど……どこどこ?……あっ、いた!ニコさーん!こんばんは!」

「沙生さんこんばんは!お邪魔してますー!あの、よかったらココにある麦茶とか……どうぞ!」


 ニコちんはちょっと早めに来て、蚊取り線香を焚いたり、麦茶を淹れたりしてくれていた。「酒はねえのかよ」って茶化してる子たちがいるけど、だいたいもう自分で酒瓶ごと持ってきてるみたいだし、ほっとこ!


「副隊長、俺ちゃんと山盛り豆大福つくって持ってきましたよ!」

「わーい!ありがと、かっつん!」

「いえいえ、どういたし」
[…アーアー、どうすか?聞こえてます?]

「うわっ!?い、いま俺の手が喋った……斑目三席も聞こえましたか?」

「ハァ?何言ってんだ金矢、ンなワケ――」

[――そろそろ打ち上げ開始しますんで。あと30秒くらいでーす]

「阿近の声じゃねぇか!なんだその……義手か!!義手だな!?スゲェな」

「そういえば伝令神機の機能が埋め込んであるんでした。近未来感……!」

「かっつんの新しい手も完成してたんだ!よかったねー!」

「はい、まだ慣れませんけど……そうだ、斑目三席も多機能入れ歯にしてもらったら便利かもしれませんね!」

「入れ歯言うな!俺のは義歯だ!」

[伝令神機の機能の話なら、そこまでの小型化は現状厳しいですねー。あと似たようなモンなんで入れ歯でも間違いじゃないですー。はい、残り10秒切りましたー]

「あ゛!?」

「つるりん、いーからいーから!みんなー!お空にちゅうも〜く!」


 まんまるいお月さまの光を反射して光るつるりんのつるつる頭に飛びついて、十二番隊の方角の空を指差した。方向オンチってよく言われるけど、ニコちんが「ここのお庭からなら、あの松の木の上あたりですよ」って教えてくれてたんだ。
 縁側に座ってお喋りしたり、お酒を飲んだりしていたみんなが、一斉に顔を上げた。打ち上がる音がひゅるると鳴り響いて、高いところで花火がドンと咲いた。赤い火花が尖った星形に散って、キラキラきれいな、大きいやつ。あれは『イケイケ剣ちゃん玉』!


「おぉ〜!」
「なんだ!?花火!?」
「今日なんかあったっけ?」
「副隊長が俺ら集めたのってコレかぁ」
「いいっスねえ!」
「酒飲みながら花火なんて久し振りだぜ!」
「この麦茶うめぇ……!えーっと、久南ちゃん?これ酒で割ってみても良い?」
「副隊長ありがとうございまーす!」
「隊長!お酌しやすぜ!」
「たーまやー!」

 ガヤガヤ盛り上がって、すっかりお祭りみたい!いろんな色の、いろんな大きさの花火が次々と上がって、消えていく。
 桃色の小さいお花がパパパ〜ッていっぱい弾けたのは『満開やちる玉』!丸く広がって緑から白になったのは、ニコちん考案『オオデマリン』!雷みたいに黄色にピカッとしてから薄くなっていったのは『ピカピカハゲつるりん』だよ!


「今なんつったこのドチビ!?」

「あっ!今のは『美しく散るゆみちー玉』だったよ!」

「へぇ?尾を引いて枝垂れていく青……なかなかいいじゃないか」

かむろ玉ってやつだね。オカッパ頭だもんね、弓親」

「そう!りんりん当たり!散るオカッパで『ピカピカハゲつるりん』とセットだよ!」

「は?今なんて言ったのこの副隊長」


 他にも『かっつんあんころ餅ノボリ』、『お茶くみせいちゃん緑星』、『大遅刻大目玉』。いっぱい上がって、いっぱい楽しんだ。もうそろそろ終わりかな。


[――ハイ、次で最後でーす]

「あっ!」


 まっすぐのびて、パアッと開いた。大きすぎず小さすぎない、真っ白なお花。


「副隊長、今のって――」

「うん!あれはね、『ハクチョウりんりん玉』!」

「やっぱり私の?……へへ、ありがとうございます。とっても綺麗でしたよ」


――――――


「花火の後ってしんみりしますけど、満足感も凄いですよね……さて、片付け片付け……あっ副隊長、お茶請け足りましたか?」

「うん、お腹いっぱいになったよ!ごちそうさま!」

「なかなか粋なコトすんじゃねぇか。花火の名前はどうにかしろって思うが」

「久南さんと一緒に作ったんですって?」

「そうだよ!楽しかった!あたし今度は花火になってみたい!ねぇ、花火の中から見た花火ってどんなかな?」

「そんな、作ったり上げたりはともかく、花火になりたいなんて――」

「どんなでしょうね?何だか私も気になってきました」

「――沙生まで変なこと言わないでくれ。駄目だよ、危ない遊びは」


――――――


 もう真っ暗だから、ニコちんはりんりんのお部屋に泊まっていくんだって。「あたしも!」ってお願いしたら「いいですよ」ってオッケーもらえたから、今日はこの三人で川の字。あたしが真ん中。
 いい一日だったなぁ。絵日記も上手に描けたし。

 おやすみ♪


――――――


「…………あ、れ?」


 優しくて温かい風。夜明け前みたいな色の空。天高くから聞こえてくる、鈴みたいにきれいな音。


「うーん、ここって……?」

「起きろ。お前、前にも勝手に此処へ来た事があるだろう」

「……わあ!喋る鳥さんだ!ヤッホー♪」

「ヤッホー、ではない。そう何度も気軽に出入りされては我の沽券に関わるわ」


 真っ白い鳥さんが、寝ているあたしの枕元でムスッとしていた。あれ、この白いの、枕じゃない?じゃあこれは……ああ、焔だ!白い焔!そうだった、そうでした。
 ここは、りんりんの夢の世界だ。淡いお空がどこまでも広がっていて、のけぞってもテッペンが遠すぎて見えない、黒い塔がたくさん。下の白い焔には触ってもヤケドしなくて、あったかい。すてきな場所。また遊びに行きたいなって思ってたせいかな、無意識のうちにお邪魔しちゃったみたい。
 あたしの世界は、嫌いじゃないけど、ちょっとさみしいなって思うこともあるから。あんまり何にもないし、誰も来ないんだ。でもね、白い雲が浮かぶ青い空だけは、りんりんの世界の空にも負けないくらいキレイなんだよ。


「白い鳥さんが飛んだ!そうだ、じゃあシロ……シロ、ト……」

「お前はすぐそうやって、あだ名を付けたがるのだな」

「うん!名前を付けてもらうのって嬉しいでしょ?だからあたしからも付けてあげるんだ!……名前が一つだけじゃなきゃダメってこと、ないでしょ?シロトビさん!」

「こら、人様の世界に上がり込んで更に核心を突くな。我の今の名は『鳶絣とびがすり』だ。別の名で呼ぶな」

「え〜」

「お前の名は『草鹿やちる』だろう。それが『野野のやっち』とか『さらっち』とか呼ばれてみろ」

「あはは!変なの、全然あたしの名前って感じじゃないもん」

「な。だからそういうことだ」

「ん?どういうこと?」

「我から詳しく説いてやる気は無いぞ。親でもあるじでもないのに名を暴くのは良からぬ事だからな。……ひとり、天下取り気取りで筆を運ぶ生意気坊主がおったりするが」


 あたしの頭上を旋回しながら飛ぶ『鳶絣とびがすり』は、さっきまでよりもひときわ強く、翼を動かした。煽がれた白い焔の海がぶわっと分かれて、あたしの目の前に細い道ができた。


「さあ、もう帰れ。今宵は沙生を此処へは来させんぞ。せっかく深く寝入っているようだし、お前のことを説明してやるのも面倒だからな」

「むぅ〜……じゃあハクチョウさん!一つお願いきいてくれたら、帰ってあげてもいいよ」

「……内容による。過ぎた我侭であれば、この鈎爪かぎづめさらってしまうやもしれんがな。無事にあの眼帯小僧の元に戻りたければ、素直に――」

「花火をね、中から見てみたいの!花火になってみたい!」

「――癇癪玉かんしゃくだまになられるよりは、尺玉にしてやるのがマシか……まぁそのくらいならば良かろう。どれ、其処でじっとしていろ」


 白い焔が渦を巻いて、あたしを取り囲んだ。不思議なことに、それでもまったく熱くない。風が強まる。そして体がふわっと宙に浮いたと思ったら、次の瞬間には大砲から撃ち出されたようにビュンと空高くに上がっていった。


「わ〜!自分で力いっぱい跳んでもこんなに速かったことないや!!」

「軽い軽い。そら、見逃すなよ。お前を中心にして咲かせてやる」


 黒い塔のテッペンよりずっとずっと高いところで上昇は終わった。フッと重力に引き寄せられる前に、弾けるようにして火花が散る。
 視界いっぱいに、まぶしい白い火花。遅れてほんの少し、キラキラヒラヒラして見えた黄色。水の中に落ちたらハネて広がる最初の波紋みたいに一瞬だけど、かけがえのない体験。焼きつく光景。あたしだけの景色。


「すごい!すごいすごーい!打ち上げ花火、ウチから見るとこんなんなんだ!ありがとー!!」

「これは夢ゆえな、朝飯前だ。一応言っておくが、現実では呉々も大砲から打ち上がろうとするなよ。……志波のアレは別として」


 体が風をきって落ちていく。花火もキレイだったけど、落ちながら眺める世界もキレイ。夢だからこのまま落っこちきっても死なないだろうけど、お願いはきいてもらったんだから、帰らないとなぁ。


「ねえねえハクチョウさん、花火、もっといろんな色にもできる?」

「……まだ難しいな。せめてあと百年くらい待て」

「じゃあ、百年くらいしたら、また見せてくれる?色いっぱいの、もっと大っきな花火!」

「観たくばそれまで消えぬことだ。今回ほどの特等席はそうないだろうがな」

「――うん!じゃあ、またね!」


――――――


 夢から覚めると、もう朝が来ていた。りんりんとニコちんはまだ眠ってる。二人を起こさないように、ゆっくりと布団から出た。
 文机の上には開きっぱなしの絵日記がある。きのう描いた、大好きなみんなと花火を見上げている絵。りんりんのとなりに、こっそり、白を描き足した。

打ち上げ花火、ウチから見えた!


 およそ3年前、本編主人公さんを語り手とした『灰に赤白焼べて野晒』を更新した際にこんなことを言っていましたが、遂に挑戦しました。語り手やちるちゃん編です。難しかった……語り手元柳斎殿編というのもこれ程までではなかろうよ、と言いたくなるくらいには。東仙隊長視点も難易度が高いと度々零しております私ですが、この二名と比べると簡単だったかもと錯覚できます。
 小説には最低限の記号のみ使用!をモットーにしてきましたが、今回ばかりは古のギャル文字モドキを混ぜました。ちびっこが書く文字(誤字や下手字)を何とか表現できないものかと検討を重ねた末の決断です。どうか広いお心で、大目に見てやってください。
 白鳶の相棒がやちるちゃんに言った「前にも勝手に此処へ来た事があるだろう」という下りは、本編20話『抽んでたがり』での一幕を踏まえてのことです。なぜ彼女は主人公さんの精神世界に入り込めるのでしょう?さて、ナンデカナー(すっとぼけ)。

prev - bkm - next
8/10/70
COVER/HOME