自傷自罰は朦先からよ

死ぬれば死神
じしょうじばつはもうせんからよ

 道中の枝垂れ柳がざあざあと音を立てている。吹き鳴らすは弱々しい向かい風。しなやかな枝葉たちは、私に向かって伸びてくる大きな手のようだ。こっちに来ないでくれ、さあ回れ右――と促すかのような動きに、風を起こしているのは実は浮竹隊長ではなかろうかと邪推したくなった。


「楠山も朝飯まだだろ?食堂寄ってからにしようぜ。雨乾堂は逃げねんだし」

「そうしましょうか。浮竹隊長は逃げるかもしれませんけど」

「おぉ、待ってた通りのツッコミどうもな」


 死神になってからも何度か十三番隊で食事をとっているが、朝にというのは久し振りだ。七日間泊まり込みで勉強させてもらった時以来になるか。
 潤朱うるみしゅの暖簾をくぐってお盆を手にすると、中央あたりの席に着いていた沢子と目が合った。ぱあっと嬉しそうな顔になって手を振ってくれたので、空いている右手を軽く挙げて応えておく。今日の献立はゆかりご飯と鯵あじの干物、もずく酢、それと赤茄子と卵の炒め物。お味噌汁には茗荷みょうがが入っている。海燕さんも私も、示し合わせずとも沢子がいる方へ足が向いた。


「沙生さん沙生さん、おはようございます!お元気になられてよかったです」

「おはよう。この通り、松葉杖はもう要らなくなったよ。隣いい?」

「どうぞどうぞ〜!あ、海燕さんもおはようございます」

「オマケかよ。今朝は見坊と一緒じゃねぇのか?」

「今日はとっても早くに済ませたみたいです。私が来たとき、ちょうど出てってました」

「ふーん?そうかぁ。いただきまーす」


 海燕さんは私の向かいにどっかりと座った。私も手を合わせて「いただきます」をして、やっぱりまずはお味噌汁から。これこれ、これだよ初夏の味。向かいの海燕さんはというと、早速もずく酢で咽むせていた。吸って食べるからそうなるんですよ。器を傾けてゆっくり流し込むのが正解です。
 遠征であった大まかな事は、先日いつもの三人組でお見舞いに来てくれたときに話してある。だから食事中の会話は「今日は午後から暖かくなるそうですよ」とか「これはあっちの畑で穫れたてで」といった平和なものだった。
 先に食べ終わった沢子は「じゃあお仕事いってきま〜す」と言ってぴょこぴょこと食堂を後にした。海燕さんは食べ方が早くて、もう食後のお茶を啜っている。


「なぁ、俺からも少し話してやろうか」

「……父様の話ですか?」

「まぁ言ってもそんなに詳しくないんだがな。一緒に住んでたわけでもねえし、俺が死神になったのだって大伯父貴がいなくなった後だし。ぶっちゃけ、ガキの頃には何回か会ったっけなぁってくらいで」

「そんなもんですか」

「そんなもんだ。でも、俺にしか話せないこともあるにはあるかなとは思ってよ。俺目線の、俺の話になるけど」

「……聞かせてください。海燕さんの昔話」

「いいぜ、飯食いながら聞いてけよ。飯食いながら聞くような話でもねぇけどよ」


 彼は湯呑を握った右手を卓に置いて、左手は組んだ脚の上にやった。真正面には向かい合わず、ちょっと斜めに体を向けて、何から話すか迷うように「あー」とか「んー」とか言ってから、記憶を探るように話し始めた。



 私どころか爺様が生まれる前の昔話は、そこで切られた。話したら口が渇いたのか、海燕さんは浴びるような勢いでお茶をがぶがぶと飲み干し、投げ遣るように「はぁっ」と脱力した。


「……それで、その後は邪魔しにきましたか?」

「いいや。何べんか近所をウロウロしてたことはあったから、じれったくて俺から突撃したな」

「それって行くか行くまいか迷ってたやつでしょうね」

「だろうなぁ。しかも決まってそれが十月で、俺らに誕生日祝いの何か持ってきてんだ」

「可愛がられてたんですねぇ……」

「菓子とか服とかな。たまによ、変わった玩具おもちゃも混ざってたんだ。霊力を込めると早く回るし光るし飛ぶ独楽こまに、吹くと鯨とかの形した雲が出てくる喇叭ラッパなんかが。瀞霊廷で流行ってんのかと思ってたんだが、こっちで探してみても全然みつからねぇんだよなぁ。どこで手に入れてきてたんだろうなぁ……」

(たぶん浦原製だソレ……)


 可愛い親戚の子のために、器用な友人に頼んで作ってもらっていたのではないだろうか。そんな時代錯誤遺物をぽんぽん発明できる人なんて、彼と局長さんくらいだと思う。


「というか妹さんもいたんですね」

「ああ、空鶴っていってな――……あん?『も』って言ったか?」

「岩鷲くんなら知ってます。流魂街にいた頃、たまたま会ったんです」

「聞いてねぇ。そういうことはもっと早く言えよな」

「隠してたわけじゃないですよ?そういえば言い忘れてたなぁと……まぁ、いいじゃないですか」


 五大貴族についてはそれほど詳しくなかったから、当時は流魂街をほっつき歩いていた岩鷲くんが不思議でならなかったが……さっきの話に拠れば、志波家はそれが標準みたいだ。四つ月越つきごしに納得した。


「だが顔見知りだってんなら丁度いいか。盆休みにでも家に連れてってやる」

「わぁ、行きたいです!岩鷲くんも『遊びに来い』って言ってくれてましたし」

「……お前、岩鷲に何したんだ?そうホイホイ客を呼ぶような性格じゃ……」

「虚に襲われていたところを助けました」

「はぁ?俺の知らないところで弟の命の恩人にもなってたって?」

「お兄さん、ここはお礼を言うところでは?」

「まぁそうか。どうもありがとうな。兄弟そろって、縁かねぇ……」


 柱に掛かっている振り子時計から、丸みのあるボーンという音が八回聞こえてきた。もう始業時間が近い。食堂でまだ駄弁だべっているのは私たちだけになっていた。


「どぉれ。そろそろ行くぜ、雨乾堂」

「海燕さんにもまだ訊きたいことがあるのですが……」

「いつでも話してやるから、あとあと。俺は逃げねぇが隊長は逃げるぞ」

「それもそうですね。じゃあ行きますか」


***


 沙生は今日にも退院できるのだと聞いた。行って、返って――と願って見送ったのに、行きと同じ姿では帰ってこなかった。緊急隊首会には出席できず、肝心な彼女の危機にもまた駆けつけられない。己の体の弱さをいつにも増して恨めしく思った夜だった。
 昨日、一心を呼びつけて聞き出した事の顛末は、俺を更に苛さいなんだ。

 天に旅立ったとばかり思っていたあいつが、未だ地に囚われているかもしれない。

 冥福を祈り、懺悔なぞし。俺は勝手だ。届きもしない遠いところへ行ってしまったことにして、伸ばすべきだったこの手を懐に仕舞い込んでいた。鷹の目貫を握りしめ、形見だ何だと。しかしこの期に何ができるかといえば、何もできない。俺には才も力も足りていない。虚の世界に乗り込んで、あいつを助けてやれる術をもたない。
 ――彼ならば、或いは。そうは思っても、居場所さえ分からない。彼が仲間を使い捨てるような実験をするはずがない、重罪に問われているのもきっと何かの間違いだと思うが、嗚呼、俺は思うばかりだ。結局は何の行動にも起こさなかったじゃないか。友のために地位も信望も抛なげうった四楓院を、俺は心底尊敬するし、内意ないい嫉視しっししている。
 俺が持てる全てを差し出せば、黒き洞うろに沈んだあいつを抄すくえるというなら、喜んでそうしてみせるのに。そうしたところで、空騒ぎの徒労に終わるだけだと目に見えている。

 沙生は今日にも対向しに来やしないか。俺の知らぬ間にあいつの話もちらほら耳に入ってしまったらしいし、既に確信に似たものを抱いているかもしれない。ここ最近、海燕からの視線がますます痛いのも気のせいでは済まないだろう。
 ……駄目だ、俺はまだ心の整理がついていない。護ってやれる力もないのに、あいつの友人としてどういう顔をするべきか分からない。向き合う覚悟がない。不甲斐ないうえに申し訳ないが、今日は静かな何処かへ消えていよう。ひっそり、こっそりしていよう。いつもならまだ布団からも出ていない時刻だが、誰かが来る前に――


「おはようございます浮竹隊長。今朝はお早いですね」

「お、おはよう見坊。……どうしたんだ、そっちこそ何時もはこんなに早くは……」


 御簾を開けた先の橋に、風景に溶け込むようにして彼は佇んでいた。池に浮かぶ蓮を眺めて詩歌でも認したためていたのか、小筆と短冊を持っている。


「今日は久し振りに暖かくなるそうです。そうだ、某が茶を淹れて参りましょうか」

「いや、今朝は散歩にでも行こうかと……」

「そう仰らずに。寝覚めによい芳醇な香りの茶葉が手に入ったばかりなのですよ」

「そ、そうか。茶を一杯だけならまぁ……」

「はい。では少々お待ちください」


 見坊はいつもと変わらない糸目で微笑むと、向こうの棟へと歩いていった。心做し浮き立っているようにも見えた。よほど良い茶葉が手に入って、ご機嫌なのだろうか。珍しいな。


――――――


「……お茶だけと……」

「お節介かとも思いましたが、朝食も持って参りました。今朝はゆかりご飯ですよ。茶にもさぞ合うことでしょう。さあ、召し上がれ」

「う、ううむ……せっかく誰かが作ってくれた朝食を残してしまうのは良くないしな。ああ、頂こう」


 見坊は満足げに頷くと、また去っていった。……早めに平らげなければ。


 ――――――


「………見坊」

「浮竹隊長。茶のおかわりは如何ですか?こちら、先程のものとは異なりまして。食後の胃にとても優しく、薬にもなるのです」

「ええと……悪いが、それはお前が飲んでくれ。俺はもう腹がいっぱいなんだ。腹ごなしに散歩を……」

「ところで、貴方が復帰を心待ちにされていた方が近くまでおいでです。まさか、おかえりの一言もお掛けにならない――」

「…………」

「――なんてことは万に一つもございませんよね。失礼を申しました。この茶は冷めても美味しいですから、急須の中で濁ってしまう前に注ついでおきましょう。ごゆっくりどうぞ」


 あぁそんな、茶碗の縁ふちまでなみなみと……もう八時の鐘の音がして……あー……いい天気だなぁ……。


***


 せーの、


「「お邪魔します!!」」

「うわあぁ」


 敢えてそんな挨拶をして、足並みも揃えて雨乾堂に突入した。浮竹隊長は驚いた!というより嘆かわしいぃとでも言いたげに、眉どころか目まで八の字みたいにしている。ふと海燕さんの横顔を見上げてみると……にんまりしてまぁ、茶化スイッチ入ってるぞ、これ。


「遂に来てしまったか……」

「浮竹隊長、おはようございます」
「おはぁようございまぁす」

「おはよう……沙生、その手にあるのは?」

「私と海燕さんの分のお茶にお菓子です。さっき見坊さんが持たせてくれました」
「隊長〜、今日は早起きだったそうですねぇ。散歩とか行こうとしてましたぁ?」

「そう、いや、まさか、いやいや。このあいだ喀血かっけつしてしまったばかりだし、安静にしていないとな……?」

「でも今朝のご飯は残さずおあがりになったそうですし、ここでお話するくらいはいいですよね?」
「試しにウチの畑で育ててた赤茄子、あれ意外とイケましたね〜!……隊長?蹲うずくまってどうしました?」

「…………ぅ……」

「え……何なに、なんです?もしかして具合が悪いんですか?それなら無理には……」
「いーや、騙されんな楠山」


 海燕さんは大股で浮竹隊長に近付き、俯いて小さくなっている彼の両肩をがっしりと掴む。それから上を向かせようとしているみたいだが、浮竹隊長は体に力を入れて抵抗しているようで、二人して小刻みにぷるぷる震えるというおかしな事態になった。力の拮抗した相撲取りがお互いの廻まわしを抑えてのこったのこった、みたいなことしてどうしたどうした。取り敢えず、浮竹隊長の具合は全然悪くないのは分かった。


「……あたッ、海燕、ま、参った……!参ったから!脇腹が攣りそうだ!」

「やっと観念しました?縮こまって普段使わない筋肉いじめるからですよ」


 海燕さんは浮竹隊長の肩から手を放すと、呆れたように溜息を吐いた。今だけは浮竹隊長の方が子どもに見える。


「くっ……容赦がないな……少しは躊躇ってくれるかと思ったのに……」

「隊長、喉に指つっこもうとしてませんでした?」

「え?…そ、そんなこと……してないぞ?」

「吐き戻して血に見せかけるのはいくらなんでも無理じゃないっすか?往生際が悪すぎませんか」

「往生なんてほら、そんな縁起でも……」

「ほほー、分ぶが悪いとみたら今度は話を逸らしにかかりますか。楠山、もうアレ見せてやってくれ」

「アレ……あぁ、はいはい」


 それにしても、ここまで悪足掻きされるとは思っていなかった。どんなに無様になっても話したくないという気持ちが強すぎやしないだろうか。ちょっとびっくりした。
 畳の縁へりを跨いで二人の元へ寄り、海燕さんの隣に正座する。そして「ここまで種は上がっていますよ」と知らしめるために、懐から動かぬ証拠を取り出して浮竹隊長に突き付けた。


「それは……?」

「臍の緒です」

「へ?」

「臍の緒。私と母様のものなんですって」

「へ――」

「おっと、その先は言わせませんよ。おきまりの駄洒落とか要りませんからね」

「――ェー……」


 先手を打つと、気まずそうに「へ」が間延びし続けた。本当に言うつもりだったんですか。
 よくも駄々を捏ねてくれたものだが、これでは彼も陥落するしかないだろう。卯ノ花隊長はこうなることを見越していたからこそ、唐突に一番手として話をしてくださったのかもしれない。というか、浮竹隊長のこのまるで子どもじみた有り様を見るに、そうとしか思えなくなってきた。
 海燕さんはやや声を落として「隊長」と呼びかけると、ぽんと私の肩を抱いた。


「俺とこいつが親戚だってことはもう分かってます。全部種明かししてくれても罰ばちは当たらないと思いますがね」


 海燕さんは真っ直ぐに浮竹隊長の目を見ながら話しているが、浮竹隊長は気まずそうにして自分の膝あたりを見つめている。


「俺だって訊きたいことは山ほどありますよ。でもまず、こいつにとっちゃずっと知りたかった自分の親父のことなんすから。……腹、括ってくださいよ」


 ついこの間までは、真実を知るべきかどうか迷っていた。けれど太が後を押してくれて、海燕さんが手を引いてくれるから、どんな事実でも受け止める覚悟ができた。目は逸らさないし、耳は塞がない。真実を知ったからといって私の今までは嘘にならないし、紡いだ縁もなくならない。後から知った過去の方こそ無かったことにしても良い、なんて反則みたいな考えを教えてもらってからは随分と気は楽だ。

 でも――浮竹隊長は何だか苦しそうだ。

 父様がいなくなったという事実を誰よりも受け止められずにいるのは、この人なんじゃないだろうか。目を逸らしたくて、耳を塞ぎたいんだ。真実を口にすることで、嘘にしたかった現実と向き合うのが怖いんだ、きっと。
 ……それってつまり、そうなるほどに父様を想ってくれているってことでもあり。


「浮竹隊長」

「……沙生……俺は……」

「浮竹隊長。そんな顔しないでください。私と目を合わせてくれませんか」


 急かさないように、努めて優しい声で言ってみた。かつて私自身も、そんな風に声をかけてもらえて安心した覚えがあったから。後ろめたいとか申し訳ないという気持ちになっていると、つい目を逸らしたくなるのも知っている。「優しくて悲しい顔」って、いま彼がしているみたいな顔のことをいうのだろうと思った。
 物理的な話ではなく、空気に重さってあると思う。なるだけ軽くしてあげられるように、心をゆったりとさせて待つ。海燕さんも空気を読んで普通にしている。暫くすると、浮竹隊長はゆっくりと顔を上げて私を見てくれた。


「浮竹隊長。私、怪我はしてしまいましたけど、生きて帰ってきましたよ」

「ああ。……おかえり、沙生」

「何とか戻りました。ですが、今回の遠征での殉職者と行方不明者は……五十名を超えるそうです」

「二日の襲撃で戦力を分散させられたせいだと……報告で聞いているよ」

「私も志波隊長も、部下を亡くしました。遺体を目にしていないのでまだ実感は薄いです。でも、これから日常を過ごしていくと……痛感することになるんだと思います」


 先日、あの襲撃を生き残った仲間が見舞いに来てくれたことがあった。金矢とよく一緒にいる同期の一人だった。彼は朝が苦手で寝坊をすることが多く、食堂に来るのも遅くてよく朝ごはんを食べ損ねていた。それが「遠征から帰って来てからというもの毎朝メシがちゃんとあって、おかわりだってできちまいます」と。前は食べられなくて嘆いていたのに、今では食べられて悲しそうにしている。私は「しっかり食べて強くなりな」と言ってやることしかできなかった。


「戦いではみんな必死です。必死じゃなかった人なんていませんでした。駆けつけてくれた増援部隊の皆さんだって、全力を尽くしてくれたはずです。……それでも、どうしようもない時だってあります」

「そう、だろうな……」

「生き残った私たちは『ツイてる』のだ、と言う人がいました。運が良かったって。自分が死ぬ可能性だって無かった訳じゃない。だから弔ってやればそれでいい、私たちが責任感じることじゃない、と」

「……ああ。沙生は頑張った。それに部隊の誰も悪くなかっただろう」

「ありがとうございます。でも“運のせい”にするのって、人によっては難しいことですよね?」

「どういう……何が言いたいんだ?」


 出だしにこんな長話を私の方からするつもりはなかったから、要約を求められると少し困る。頭の中で綺麗に整理しきれていない。口から出たとこ勝負みたいな状態だが、それでも彼に伝えたいことが確かにあるのだ。


「『仕方がなかった』と見切りをつけて前に進めるなら、それが一番いいと思います。過ぎた事にいつまでも囚われているなんて心身に良くないに決まってます。……それでも、私はどうしたって後から考えてしまいそうです。ああしていれば怪我せずに済んだんじゃないか、こうしていれば死なせることはなかったんじゃないか……」

「それは……俺もそうだよ。周りの誰も俺を責めないが、俺が俺を許せなくて……自責することがある」

「はい。私や浮竹隊長は、“運のせい”にするのが下手くそな部類ということですね」

「……下手くそ……まぁ、そうだな……そうかもしれない」

「『仕方なくなかった』と自責をやめられない、どうしようもない強情っ張ぱりです。そういうのを『好きで気負ってる』からいいんだ、と言う人もいました」


 横で海燕さんが独りごちるように「あ〜」とか言っている。何に対してのあ〜なのか。
 兎に角これ、言われたときには止よしてほしいと思ったものだが、後になってくると案外じわじわ嬉しくなってしまって。限度はあるし程度が肝要だろうが、人から気に掛けてもらえることは嬉しいことなのだ。それに気負うかどうかはその人が決めることで、その人の勝手であると気付かされた。誰がどうこう言っても、それこそ仕方ないんだなぁと。


「浮竹隊長はどうですか。好きで気負っていますか?」

「好きで気負う……――ああ。誰に何を言われても、俺はこのまま変われない気がするよ」

「……それなら、そのままでもいいです。あなたが助けたいし支えたいとお思いの“気負われる人”は、困ったものだとは思いながら、ありがたいとも思っているはずですから」

「はは、何だか遠回しだな。……でも……ありがとう、沙生」


 浮竹隊長はまだ少し気まずそうだが、下を向かないで笑ってくれた。


「はーい、俺からちょっと質問」

「海燕さん?何でしょうか」

「次はこうしてみせるぞ!ってなれるんだったら自分を責めるのもアリかもしんねぇがよ?俺って駄目なやつだなぁ……ってなるだけの自己嫌悪はあんまよくないよな?」

「そうですね、程々にはしておかないと。自省と自罰は違いますし」

「だそうですよ、隊長」

「……分かったよ。……海燕、何だその目は……おい、やめてくれ。分かったから」


 ほんとに分かってますか?と彼の目が言っている。訝り眉で、些か頬を膨らませて、じいっと疑いの眼差しだ。

 ――海燕さんは子どもの頃から“海燕さん”だったんだろうなぁ。

 なんて、中々に阿保みたいなことを思った。


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表紙・家